笑顔生む筋トレのすすめ 表情筋は「慣れ」が肝心

手応えを感じやすい「筋トレ」

私はそこから気持ちを切り替えて、「笑いのエクササイズ」に取り組み始めた。口角を上げるところから始め、鏡に向かいながら、自然な笑顔になるよう、顔のあちこちの筋肉を思い通りに動かすトレーニングに打ち込んだ。といっても、毎日、少しずつの訓練だ。それでも、徐々に効果が表れ、私の笑顔は以前に比べれば、「いくらかまし」になっていった、

筋トレは物理的な訓練だから、誰でも取り組みやすい。表情筋が動くようになったかどうかも、目で見て確かめられる。効果を実感しやすい分、モチベーションも保てる。やればやっただけ成果が出るトレーニングは続けやすい。脳がいくら命令しても、結局は表情筋の動き次第になってしまうと思えば、筋トレを優先するほうが結果につながりやすいともいえる。

番組でご一緒していた、関西を代表するタレントの上岡龍太郎さんは、ディレクターから「はい、笑ってください」といわれると、「おもろないのに、なんで笑えるねん」と切り返していた。その当意即妙の返しがおもしろくて、その場の人はどっと笑い、結果的にいい笑顔の映像が撮れた。もちろん、ご本人は自在に笑顔を生み出せるプロ中のプロであり、表情筋の切り替えも思いのまま。「笑いの殿上人」のレベルに驚嘆させられた。

一般的な仕事のつきあいを円滑にする程度であれば、上岡さんのようなレベルに達する必要はない。相手に「悪意はありませんよ」と感じてもらえるレベルで十分だろう。「ビジネス笑顔」とでもいったらいいだろうか。お互いの警戒感を解いて、本題にあたるビジネスの議論や相談に集中できる環境づくりとしての笑顔だ。

前提になるのは、表情筋のトレーニングだが、気持ちの側面も無視できない。純粋に表情筋だけから生まれる笑顔も、無理にこしらえた笑顔と同じく、どことなく違和感を帯びるからだ。

せっかく手に入れた笑顔に、実感を加えるには、目の前にいる相手への興味が欠かせない。仕事上の付き合いかもしれないが、せっかく人生の一瞬に出会った相手なのだから、人間的な興味を持たずに、全くのビジネスライクに時間を共有するのは、味気なくもったいない。

「へえー、珍しい苗字ですね」「そのバッグ、ずいぶん重そう」「ずっと、こちらの部署なんですか」など、ちょっとした点に関心を持って、相手に問いかけてみれば、言葉と好奇心が笑顔を肉付けしてくれる。自分にポジティブな興味を持ってくれた人を、多くの人は好ましく感じるから、返ってくる答もポジティブになりやすい。そういう言葉が一、二往復すれば、あたたかいムードで本題に入っていきやすくなる。

「笑顔をこしらえなえれば」という強迫観念のような意識はプレッシャーになりがちで、結果的に引きつったような表情につながりかねない。笑顔づくりに意識を向けるのではなく、むしろ相手の特徴(名前や所属先)や雰囲気、持ち物などに好奇心を向けることによって、自分をリラックスさせやすくなる。顔のほうは表情筋に任せて、目の前の人をおもしろがるようにすれば、笑顔に気持ちが追いついて、こなれた見え具合に映る。その自然な連携のためにも、まずは表情筋のトレーニングが肝心だ。

例に挙げた赤ちゃんの笑顔のように、無意識のうちに笑みがこぼれるような対象物を見付けるのも、顔のこわばりを解くうえで意味がある。実際に表情筋が動くと、それまで動いていなかったことに気づき、もっと動かしてみたいという気持ちにも誘われる。

たとえば、犬や猫といった、動物の愛くるしいしぐさは自然体の笑みを引き出しやすい。インターネット上には愉快な動きやキュートな表情を紹介する動画が無数に公開されている。こういった笑顔をもらえる動画を見て、自分の表情筋に「笑う」という動作を覚え込ませるのもいいだろう。

要は「慣れ」の問題だ。表情筋は動かさないと、無表情が癖になりやすいといわれる。逆に、普段から動かし慣れていれば、脳の命令にも素直に従ってくれる。外出や移動、集まりなどが制約されて、全国的な笑顔不足」になっている今だからこそ、部屋にこもってでもできる「笑顔筋トレ」を始めてみてはどうだろう。そして、もうじき出会いの春がやってくる。

※「梶原しげるの「しゃべりテク」」は毎月第2、4木曜掲載です。次回は2020年4月9日の予定です。

梶原しげる 1950年生まれ。早稲田大学卒業後、文化放送のアナウンサーに。92年からフリー。司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)。「日本語検定」審議委員。著書に「すべらない敬語」「まずは『ドジな話』をしなさい」など。

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