外食のサブスク 元の取り方は?計算式を考えてみた値段の方程式

2019年の流行語大賞の候補にも選ばれたサブスク。サブスクとはサブスクリプションの略です。毎月決まった金額で、様々なサービスが使い放題になるというビジネスモデルです。動画や音楽配信、カーシェアなど様々な業界がサブスクを始めています。もっとも勢いがあるのが外食産業です。値段はどう決まるのでしょうか。

まず飲食業界ではどんなサブスクがあるのでしょう。居酒屋チェーンの「金の蔵」は「飲み放題定期券」が月額4000円(税込)、牛角が2019年11月から今年1月まで実施していた「焼肉1カ月食べ放題」が1万1000円(同)です。

サブスクのシステムを運営するインサイトコア(東京・港)の場合、19年2月にサービスを開始し急激に採用店舗を増やしています。現在、30ブランドで200店。早期に2000店舗を目指すといいます。

店舗のメリット

もともとサブスクは音楽や映像配信が中心でした。何回再生されようが、コストはそれほどかかりません。外食はそれとは違ってサービスのために材料費や人件費といったコストがかかってきます。極端な話、お客さんが1カ月食べ放題を30回利用すると、店にとってはとんでもない赤字になりそうです。大丈夫なんでしょうか。

牛角の「焼肉食べ放題」のチラシ

2019年11月から東京と千葉の3店舗で、焼肉食べ放題などのサブスクサービスを始めた牛角で話を聞いてきました。担当者は「飲食店において大事なのは新規のお客さんとリピーターのバランスです。サブスクはリピーターとの関係性を築くのに可能性があります」と話します。

焼肉店の場合、2~3カ月に1回くらいがお客さんの平均的な来店スパンだといいます。牛角のサブスクの利用者は平均で1カ月の間に2.5回から3回来てもらっているそうです。私が赤坂店で取材した際には「1カ月に10回はくるつもり」と話す猛者もいました。「確かに1カ月に31日来るとお店は赤字になりますが、すべてがそういうお客さんではない。来店頻度を増やす方がうれしい」(牛角を運営するレインズインターナショナル)。

SNSでも大きな話題を呼び、想定を大きく上回る購入がありました。あまりに人気過ぎて1月にいったん販売を終了しました。3月2日から5店舗で試験販売を再開しています。サービス内容を変更し、平日は時間帯やメニュー内容によって1万1000~1万8700円)と種類を増やしています。「お一人様や、ご家族様になじむサービスを中心に7種類のプランを用意した」といいます。31日までの期間限定ですが、店舗によってすでに売り切れているものもあるそうです。

「定期券」で固定客獲得

競争の激しい外食業にとっては、「定期券を持っているからあの店に行こう」となるのが最大のメリットです。ある大手居酒屋チェーンの場合、サブスクの導入で客単価は10%下がったそうです。一方で来店頻度が4倍になり、トータルの売上額としてはプラスになりました。

外食は価格競争になりやすいですが、お客さんの来店頻度を増やすことで、価格競争から一線を画し、経営が安定します。天候不順や気温の変化による客数の増減の波を安定化させ、常に一定の売り上げを保てるメリットもあります。

値段設定のノウハウ

サブスクの値段をいくらくらいにするのかは、難しそうですね。牛角の1カ月食べ放題は1万1000円。担当者は「1カ月、3回くらいで元が取れないとお得感がない。値段設定を安くしすぎると、売れない」と話します。牛角の場合は3回行けば元が取れる値段設定です。

お客さんにお得だと思ってもらわないと買ってもらえないし、一方でお客さんの来店頻度が高すぎると困ります。それの見極め、つまり「来店何回分」という計算で値段を決めています。

外食のサブスクの値段設定はサブスク導入による客単価のダウン幅とリピート率のアップ幅、このバランスで決まります。

(BSテレ東日経モーニングプラスFTコメンテーター 村野孝直)

値段の方程式
BSテレ東の朝の情報番組「日経モーニングプラスFT」(月曜から金曜の午前7時5分から)内の特集「値段の方程式」のコーナーで取り上げたテーマに加筆しました。
◆音声で詳しく 外食向けのサブスクサービスを展開するインサイトコア(東京・港)。日経の音声チャンネル「ヤング日経」の火曜パーソナリティ、横山由季さんがインサイトコアの島田大介会長にインタビューしています。島田さんがサブスクとはなにか、そのメリットを話しています。こちらもぜひお聴きください。