夢のひととき 乗るだけで楽しい行楽列車ランキング
フランス料理を堪能しながら眺める車窓、子どもがワクワクするぬいぐるみのシート――。乗ること自体が楽しめる列車は全国に数多く走っている。春の行楽シーズン。旅を彩る列車を専門家に選んでもらい、大人編と子ども連れ編に分けてランキングした。
<おとなが楽しむ>
大阪から札幌まで、約1500キロを23時間かけて旅する寝台特急。北陸から東北の日本海側を通り、海に沈む夕日を眺めながら夕食を楽しめる。食堂車ではフランス料理のフルコース(予約制)が味わえる。「季節ごとにメニューが変わるフランス料理は丁寧な作りで、まさに大人のぜいたく」(JTB鉄旅ガールズ)、「海側を見ることを第一に考えられたサロンカーの構造がいい」(土屋武之さん)。
大阪―札幌間で大人1人2万5620円(B寝台、片道、運賃込み)。展望タイプのスイート(写真)など部屋のランクに応じて寝台料金は上がる。大阪始発は月、水、金、土に運行。
往年のジャズの名ナンバーを冠した列車。16世紀の天草に伝わった南蛮文化をテーマにデザインされ、木やステンドグラスを配した落ち着いた色調の車内は大人の雰囲気が漂う。バーカウンターでは地元特産のデコポンをアレンジしたハイボールが人気。乗車時間は40分程度と短いが、窓から広がる有明海の景色など、見どころは多い。「列車のホームから『A列車で行こう』がかかり、旅のムードを高めてくれる」(矢野直美さん)、「流れゆく車窓を楽しみながら、上質な大人の時間が過ごせる」(野田隆さん)。
全席指定。熊本―三角間で大人1人1820円(片道)。土、日に運行(春休みやゴールデンウイーク、夏休み中などは毎日運行)。
伊勢神宮の20年に一度の大祭に合わせ、3月21日にデビューしたばかりの観光特急。大阪・名古屋と伊勢志摩の賢島を結ぶ。1列に3席の座席はゆったりしている。掘りごたつ式の個室やリビングのような洋風個室も備える。カフェでは松阪牛カレーや河内ワインなど沿線の名産品が味わえる。「座席や個室、カフェなど近鉄の行楽列車のノウハウを全て注ぎ込んだ決定版」(土屋武之さん)
全席指定。料金は大阪難波―賢島間で大人1人4810円(片道、運賃込み)。水曜除く毎日運行(春休み、夏休みなどは水曜運転の日も)。
大きな窓から白神山地の絶景が望める。車両は「青池」「●(ブナ、木へんに無)」「くまげら」と、色調やデザインが異なる3タイプがある。津軽三味線の生演奏や津軽弁の昔語りも見どころ。「荒々しい日本海の車窓風景が満喫できる」(櫻井寛さん)。全席指定。料金は秋田―青森間で大人1人4820円(片道、運賃込み)。
車両は4タイプ。中でもVSEは「見やすいよう工夫された窓、飲み物サービスなどで旅行気分をかき立てられる」(小川裕夫さん)。高層ビルから住宅地、山並みへと景色が変わり「四季の自然のすばらしさが満喫できる」(大庭幸雄さん)。全席指定。料金は新宿―箱根湯本間で大人1人2020円(片道、運賃込み)。毎日運行。
山陰・四国と東京を結ぶ夜行列車。車内は木のぬくもりを生かしたインテリアに統一されている。
豪華な食堂車とラウンジを備えた寝台特急。展望室タイプのスイート(1室のみ)は予約がなかなかとれないほどの人気。
珍しいスイッチバックとループ線を走る。霧島連山とカルデラを望む絶景を楽しめる。
だるまストーブで暖をとりながらオホーツク海の流氷を眺められる。例年、1月下旬~3月上旬ごろに運行(今年は終了)。
岐阜県の高原を走り、季節ごとに様々な料理が楽しめる予約制の食堂車。4月2~30日は「おばあちゃんのお花見弁当」。
<こどもと一緒に>
阿蘇のパノラマが楽しめる。木のボールが入ったプールなど楽しいしかけが多い。子ども席が窓側にくる親子シートや、低い位置にあるカフェカウンターなど子どもの目線にこだわった。「乗務員が絵本を読んでくれたり、一緒に歌ったりとにぎやか。まるで走る保育園」(猪井貴志さん)、「(急勾配を上るため工夫された)スイッチバックが体験できる貴重な列車」(田中比呂之さん)。
全席指定。料金は熊本―宮地間で大人1人2380円(片道、乗車賃含む)。土、日に運行(春休みやゴールデンウイーク、夏休みなどは毎日運行)。
松山市内を走る路面電車で、明治時代に走っていた機関車をモデルに復元した。夏目漱石の小説「坊っちゃん」で登場人物がこの鉄道を利用したことにちなんで列車の名前がついた。作中で「マッチ箱のよう」と評された列車は、子どもが喜びそうなかわいらしいデザイン。蒸気機関車の格好をしたディーゼル機関車だが、「煙突から水蒸気の煙を出す」(草町義和さん)、「機関士と助手も昔ながらの制服をまとうなど演出は抜群」(小川裕夫さん)。
料金は大人300円、小児200円。毎日運行。
富士山をモチーフにした列車で、旅の途中、様々な場所から富士山を眺められる。整理券を購入して座れる展望室では、迫力あるパノラマが楽しめる。富士山の姿をした愉快なキャラクターが車内外に101種類も描かれており、いくつ見つけられるかを競うのも楽しい。「この列車で富士急ハイランドに行くと子どもが喜びそう」(南正時さん)
料金は大月―河口湖間で大人1人1410円(片道、運賃込み)。毎日運行。
「貴婦人」の愛称で親しまれているC57形蒸気機関車を復元し、1999年から運行しているSL。紙芝居や塗り絵、絵本などが設置された「オコジョルーム」が子どもに人気で、「小鳥のさえずりのBGMが流れ、まるで森にいるような感覚」(JTB鉄旅ガールズ)。今年はパノラマ展望室を備えたグリーン車両が新たに登場する。全席指定。料金は新潟―会津若松間で大人1人2720円(片道、運賃込み)。4~11月の土、日に運行(月、金運行の日も)。
「動物の親子」をテーマに、元旭山動物園飼育係で絵本作家のあべ弘士さんがデザインを担当した。記念撮影用にオオカミやライオンなどのぬいぐるみの座席もあり、座ると動物に抱っこされているようで、「子どもだけでなく、大人でもつい腰掛けたくなる」(櫻井寛さん)。4月8日から一旦運休し、リニューアルをして7月以降に運行を再開する予定。全席指定。料金は札幌―旭川間で大人1人4680円(片道、運賃込み)。3月は毎日、4月は6、7日に運行。
群馬、栃木の両県を走る。窓ガラスがなく、風に吹かれながら渓谷の景色を楽しめる。4月下旬~11月の週末を中心に運行。
汽笛の音や煙などSLの鼓動を感じながら、球磨川の景色を堪能できる。ミニSLが並ぶライブラリーもある。
車内外はポケモンのプリント一色。隠れたキャラクターを見つける楽しみも。2012年に被災地支援の一環としてデビュー。
2階建ての車両は見晴らし満点。子ども用のプレイルームもある。伊豆への旅がより楽しめる。
車両の外装は海側は白、山側は黒と異なるカラーリング。玉手箱にちなみ、乗車時に白い煙(霧)が出る仕掛けも。
非日常へと鉄路の誘惑
大人が楽しめる列車では3つの寝台列車がランクインした。寝台列車は新幹線網が広がるにつれて廃止が進む一方で、豪華車両が売り物の列車は根強い人気がある。
今年の10月には、JR九州が「ななつ星in九州」の運行を始める。阿蘇や湯布院など九州の観光地を巡る寝台列車で、1泊2日(1人15万円から)と3泊4日(同38万円から)のコースがある。10~12月分の予約抽選では倍率が76倍のコースもあり、「募集中の来年1~3月分も抽選になりそう」(JR九州)という人気ぶりだ。
子ども連れで楽しむ列車には、1位の「あそぼーい!」など遊べるスペースを備えた列車が並んだ。もちろん、特別な設備がなくても楽しめる列車はある。「東京の山手線は接続路線が多く新幹線とも並走する。車窓は多彩な列車で埋まり、電車好きの子どもには夢の路線」(小川裕夫さん)という声もあった。
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表の見方 数字は選者の評価を点数に換算したもの。区間は主なところ。写真は「あそぼーい!」の車内写真を除き、鉄道会社の提供。
調査の方法 設備の充実や展望のよさなど、乗車することが楽しめる行楽列車(新幹線は含まず)を対象に、大人が楽しめる列車、子どもと一緒に楽しめる列車をそれぞれ専門家に選んでもらった。選者は以下の通り(敬称略、五十音順)。
▽猪井貴志(マシマ・レイルウェイ・ピクチャーズ)▽大庭幸雄(鉄道友の会事務局長)▽小川裕夫(フリーランスライター)▽草町義和(鉄道ライター)▽櫻井寛(鉄道フォトジャーナリスト)▽JTB鉄旅ガールズ(鉄道好き女子グループ)▽田中比呂之(「Web日本鉄道旅行地図帳」編集者)▽土屋武之(鉄道ライター)▽野田隆(日本旅行作家協会理事)▽南正時(鉄道写真家)▽矢野直美(フォトライター)
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