ひらめきブックレビュー

フィンランド、教育大国のなぜ 日本と比べ考えてみる 『フィンランドの教育はなぜ世界一なのか』

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PISAという、経済協力開発機構(OECD)による学習到達度調査がある。各国の15歳児を対象に、主に読解力や数学的リテラシー、科学的リテラシーについて、3年ごとに調査するものだ。

本書『フィンランドの教育はなぜ世界一なのか』によると、フィンランドは2000年の調査開始以来、複数の分野で1位あるいは高順位を獲得、世界一の教育と注目されている。北欧の小国がどうしてこんな偉業を成し遂げているのか。

その理由について探っているのが本書だ。日本とフィンランドで出産・子育て経験のある岩竹美加子氏が、両国の教育環境、教育のあり方を比較してそれぞれの特徴について論じている。

■教育は義務か権利か

著者はフィンランドの子どもが幼い頃から、主体的に学び、考える環境で育っている点に着目している。

例えば道徳の教育について。フィンランドでは、道徳にあたる科目として「人生観の知識」というものがある。その教科書に通底するのが「世界はどのようなものか」「私たちは、何を知ることができるか」「幸福になるためには、どう生きたらいいか」という問いだ。子どもにはこの問いに関する課題や質問が提示され、自分自身で考えることに重きが置かれている。

一方日本の「道徳」は「わがままをしないで、規則正しい生活をする」「勉強や仕事は、しっかりと」「集団に進んで参加」という「義務」を教える内容が多い。さらに学習指導要領を見ると、「履修させる」「考察させる」「理解を深めさせる」という使役動詞が多く使われているのだそうだ。著者は「(教育とは)国が下々のものに与えるものなのだろうか」と疑問を投げかける。

実はフィンランドもかつては、権威主義的な傾向が強かった。それが変わってきたのは、1990年代の不況の影響が大きいという。歴史的な「富の蓄積」がなく、ノルウェーのように原油があるわけでもないフィンランドは、北欧の中でもとりたてて裕福な国ではない。だからこそ、市民ひとりひとりの生きる力を強めることが重視されてきたのだろう。

幼い頃から市民の権利を教えられていることもあり、大人になってもデモやストライキを行うなど政治的に積極的である。これは自分たちの国を自分たちでよくしていく、という意識の表れだろう。

教育費についてもフィンランドと日本は対照的だ。日本はOECD加盟国中、教育への公的支出は最下位である(18年)。一方フィンランドは、小学校から大学まで教育費がかからず、さらに小中学校では教科書やノート、教材も無償で支給されるため、子ども達は平等に学習の機会を得られる。学校に通う義務はなく、家庭での学習も選択できる。

PISAの直近(15年)のデータでは、日本がフィンランドを上回っている分野もある。一方、国連が発表している世界幸福度ランキング2019では、フィンランドは2年連続の1位。日本は58位だった。人口減少社会になりつつある日本において、どちらを目指すべきか。本書が参考になることも多いだろう。

今回の評者=安達貴仁
情報工場エディター。主にDTP組版、ときどきカメラマンの傍ら、書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」エディティング・チームでも活動。東京都出身。

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