愛川欽也さんの自宅ゼミ
2015年に亡くなった俳優の愛川欽也さんから声をかけていただいて「キンゼミ(正式名:キンキンゼミナール)」に参加していたことがある。「キンゼミ」とは、番組ではなく、愛川さんが主催する「私塾」みたいなものだった。
放送業界の若手(当時の私は30代前後)が月に1回ほど、東京・代官山のご自宅に参集。奥様である女優・うつみ宮土理さんの心づくしの手料理とおいしいお酒とともに「放送の未来を語り合う」が趣旨だと記憶するが、実際は自由闊達(かったつ)に雑談を交わし合うという、とても楽しい場であった。
中でも最大の収穫は愛川さん独特の「座談の名人芸」を目の当たりにできたことだった。普段の会話もラジオそのもので、的を射た言葉がポンポンと小気味よく繰り出される。
かつて愛川さんのラジオ番組を構成した作家さんは担当ディレクターからこう言われたそうだ。「欽也さんの台本に文字はいらない。本から切り抜いた絵や写真を3枚用意すれば、彼は一生懸命、脂汗を流して、しゃれた物語を紡ぎ出す。そういう才能があるんです」
身近な先輩は「我が師」
作家さんによれば、欽也さんは、画像から触発され、自然に浮かび上がる短い言葉を、まるでキャンバスに絵の具を次々と塗り重ね、油絵を完成させるように語るのだそうだ。そして、そのできあがりは圧巻だったという。
私などがまるで足元に及ばない理由がよーくわかった。そして、ダメはダメなりに、欽也さんの「キャンバスに絵を描くように、描いた絵を言葉に戻すように話す方法」を今も模索中だ。
ここでエピソードを紹介した3人は、たまたま有名人だったが、自分の仕事観を劇的に変えてくれる優れた先輩は、思いもよらぬ身近にいるかもしれない。
※「梶原しげるの「しゃべりテク」」は毎月第2、4木曜掲載です。次回は2019年7月11日の予定です。
