ひらめきブックレビュー

未来の渋谷をハーバード大院生が設計 再開発に新視点 『SHIBUYA! ハーバード大学院生が10年後の渋谷を考える』

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2020年東京五輪も約1年後に迫ったが、今から3年前のリオデジャネイロ五輪閉会式で上映された「東京大会プレゼンテーション」を覚えているだろうか? そう、安倍首相がゲームキャラクター、スーパーマリオに扮(ふん)して登場し話題をさらった、あの映像だ。

初っぱなに映し出されたのは、東京・渋谷のスクランブル交差点。「安倍マリオ」は、交差点の真ん中でドラえもんが4次元ポケットから取り出した土管を通って、リオの閉会式会場までやって来る。つまり、映像の中では渋谷が日本の玄関口だったわけだ。

本書『SHIBUYA! ハーバード大学院生が10年後の渋谷を考える』では、ハーバード大学デザイン大学院(GSD)で建築・都市・ランドスケープなどを研究する大学院生たちが「未来の渋谷」にアプローチ。各自、斬新な街のデザインを提案している。

ハーバードGSDには、外国の都市で1学期間滞在し、現地の専門家の授業を受ける「スタジオ・アブロード」というプログラムがある。その一つに東京を舞台にした「東京セミナー」もあり、2016年には12人の大学院生が参加。そのうち5人の観察と分析、提案をまとめたのが本書だ。GSD東京セミナーの講師を務める太田佳代子氏が、それぞれに解説を施している。

■「仮設」の装置がカルチャーを育む

渋谷では、「渋谷駅」周辺の大規模な再開発が、2027年完成をめどに着々と進行中だ。鉄道駅の上に渋谷ヒカリエ、渋谷ストリームといった高層の複合ビルを造り、それぞれを屋内の回廊でつなぎ、垂直方向に伸びる人工的な空中の街を誕生させようとしている。

GSDの大学院生たちは、この再開発によって、さまざまなカルチャーを育んだ屋外のストリートが分断され、衰退するのを恐れたりもしている。

それに関してある大学院生は、再開発で人の流れが変わるのであれば、カルチャーを生み出す「装置」を用意すればいい、と提案している。

同時に彼女は、渋谷のストリートカルチャーを育む出来事が「時間的に」生まれるとも指摘。例えばスクランブル交差点は、普段はただの交差点であっても、ハロウィーンや改元前夜などには祝祭空間になる。

だから、カルチャーを生み出す装置も時間によって移り変わる「一時的」なものであるべきだとする。具体的には組み立て式の仮設のステージを、一時的に出没させる。そこで「販売」「エンターテインメント」「イベント」の3つのテーマで、ランダムに多様な出来事(ハプニング)を発生させる。

常に変化する刺激的な街・渋谷。この街を知る人も知らない人も、好きな人も嫌いな人も、多数の写真や図とともに紹介されるユニークなアイデアを味わうことで、少なからぬインスピレーションを得られるはずだ。

今回の評者 = 吉川清史
情報工場SERENDIP編集部チーフエディター。8万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」の選書、コンテンツ制作・編集に携わる。大学受験雑誌・書籍の編集者、高等教育専門誌編集長などを経て2007年から現職。東京都出身。早大卒。

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