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一夜限りのシャネルの靴 大宮エリーの なんでコレ買ったぁ?!(1)

2019/8/11

作家、演出家、画家、脚本家などの肩書を持つ大宮エリーさんは、自称「衝動買いの女王」。二度と着ない服や絶対に使わない小物たち……つい買ってしまったトホホなあれこれは数知れません。大宮さんが日経MJに連載したコラムをもとに出版された「なんでコレ買ったぁ?!」(日本経済新聞出版社)から、ファッションにまつわる衝動買いのエピソードをピックアップしました。「あーそれ、あるある」とニヤッとしたり、「意味わからない」と突っ込みを入れたりしながら、ゆる~く読んでみてください。



実は、シャネルの靴を持っている。もらったのではない。自分で買った。そして履いていない。まさに“なんでコレ買ったぁ?!”

そもそも私は、ブランドものにあんまり興味がなく、だからヴィトンのバックとかプラダだとか、みんな1つは持っていそうなものを持っていなかった。欲しいとも思わなかった。そりゃ、いいものだろうけれど、なんか、あ、ヴィトンね?とか、プラダね?ってすぐ分かっちゃうのがちょっと……。自分のようなものが持つのが、恥ずかしいというか。ノーネームで気に入ったものを買うようにしていたし、それがたまたま、その筋では有名なブランドであったりすることはあった。

◇  ◇  ◇

ハワイに滞在しているとき、きちんとしたホテルのレストランで会食しないといけなくなった。でも持っているのはスニーカーにTシャツ。急なことだったので、Tシャツとスニーカーでもいいかとレストラン担当に泣きついたが、「正装でお願いします」と譲らない。会食まで40分。仕方なくブランド通りに走って行った。

早く見つけなきゃいけないのにどこへ入ったらいいかわからず、時間がないし、これなら間違いないという店に入りたいのだが。手頃な値段で、カジュアルではなくて、、でも、初めて来たショッピング街で、見当がつかない。早くしなきゃ!で、キョロキョロして目についたのはシャネル。どうかしていると思ったけれど、もういいや!とやけくそ入店。初めてシャネルの服を見た。さすがシャネル。ラインが美しい。だんだん見ているうちに、シャネルの世界に惹(ひ)き込まれていった。紺のシックなワンピースがある。これは会食にちょうどいい。これにしよう。シャネルってロゴがなくて全然どこのものかわからない。こういうのがいい。さて、靴だ。見ると、さすがに靴ってつま先の部分にブランド的にはワンポイントつけたくなるのか、シャネル!とロゴがあるものばかりだった。でもそのとき密(ひそ)かに思ったのである。「足元くらい、シャネル!ってわかってもいいか……」こっそりわかられたい願望。

◇  ◇  ◇

そのときどこかで、「でも、シャネルが似合う女になりたいな」「シャネルの靴を買えば、そんな上品な女になれるのではないか」という乙女心があったのを素直に告白しておこう。けれど、そのハワイの夜以降、私が、シャネルの靴を履くことはなかった。ワンピースもね。スニーカーのかかとを今日も踏んで歩いている。

撮影:諸井純二
大宮エリー
1975年大阪府生まれ。作家、演出家、画家、ラジオパーソナリティー、脚本家、CMディレクター。広告代理店勤務を経て、2006年に独立。著書に『生きるコント』(文春文庫)、『なんとか生きてますッ』(新潮文庫)、『なんでコレ買ったぁ?!』(日本経済新聞出版社)など。 近年は画家としても活動。

大宮エリーの なんでコレ買ったぁ?!

著者 : 大宮 エリー
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,404円 (税込み)

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