ライフコラム

梶原しげるの「しゃべりテク」

コメントで「思い」を連発 万能言葉が意味をぼやかす

2019/4/25

■報道の現場でも多用される「思い」

私が勝手に「日本語の師匠」と仰ぐ放送文化研究所主任研究員の塩田雄大さんが『放送研究と調査2019年2月号』の誌面で、仙台市で行なわれた「放送用語委員会(放送現場で使われた、ことばについて、識者が意見を述べ合う場)」の様子を伝えている。

そこでは放送現場でしばしば耳にする「思い」について話し合われた様子が記されていた。

・取材記者レポートのコメント1
「震災後、苦労して営業を続けて、地元に戻ってくる人たちがいます。その『思い』を聞きました」

・取材記者レポートのコメント2
「かつてにぎやかだった漁港の風景を歌に残したいという方です。それぞれの『思い』を聞きました」

・取材記者レポートのコメント3
「検査でがんが発見され、手術を受けた子供もいます。その『思い』、そして検査の今後のあり方について~」

1~3で記者たちが使った「思い」に対する委員たちの指摘は明快だ。

委員「『思い』という漠然とした言葉だと、どこに焦点をあてて取材をしたかが伝わりにくくなってしまうことがある」

委員「本当に『思い』としか表現できないのか、ほかの言い方はできないのか、一度立ち止まって考えてみるようにしたい」

■最適の言葉に「思い」託す

レポート1の「震災」、レポート2の「衰退した漁港」。レポート3の「小児がんの手術」。それぞれにシリアスなテーマを丹念に取材した記者が目の当たりにした現場で、彼らの脳裏には、言葉に尽くせない様々な感情が去来したことは間違いない。

そのことは委員たちも十分に理解している。そのうえで、だからといって、感情に流されることなく、目で耳で感じたものを脳でしっかりそしゃくして、自分の言葉を紡ぎ出せ、それこそがプロの伝え手たる使命だと説いているようにみえた。

万能言葉の有効性を否定するものでは全くないが、「それ以外の言葉が本当にないのか?」と自らに問い直すことの大切さをあらためて感じた。

※「梶原しげるの「しゃべりテク」」は毎月第2、4木曜掲載です。次回は2019年5月9日の予定です。

梶原しげる
1950年生まれ。早稲田大学卒業後、文化放送のアナウンサーに。92年からフリー。司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)。「日本語検定」審議委員。著書に「すべらない敬語」「まずは『ドジな話』をしなさい」など。

ライフコラム 新着記事

ALL CHANNEL