梶原しげる氏を覚醒させた本 大学院で学ぶきっかけに
人生を変える1冊との出合いは偶然、訪れることもある。写真はイメージ=PIXTA
「あなたの人生を変える1冊」――。知恵のない本屋さんが苦し紛れにつける「ベタなキャッチフレーズ」のようだが、私の人生を確実に変えた1冊の本がある。
ラジオ局を退職し、フリーに転じそこそこ仕事もあり、気がついたら50歳が目の前という時期に、突然、えもいわれぬ不安に襲われた。「中年クライシス」というには遅すぎる気もするが、現場でご一緒する、秀逸なタレントさん、経済アナリスト、起業家、法律家、ジャーナリストなど、秀でた専門性を武器に、自在に役割を演じる人たちに比べ、自分の非力さを今さらのように思い知らされるようになってきた。
「俺、このままだと、すぐ消えてなくなるなあ」――。気分がどんどん沈み込み、落ち込みがひどくなる。
偶然に出合った「人生の道しるべ」
人に会うのも、家に帰るのも面倒で、時間つぶしに駅前の書店で雑誌だの、新刊だの、占いだの、脈絡なく、手当たり次第に本のページを繰っていた。思わぬことに、そこで、運命の1冊に出合ったのだ。それが「自己発見の心理学」(国分康孝著、講談社現代新書)だった。
「(人は)頭の使い方が上手でない場合に、落ち込むのである~考え方のツボからはずれているから(落ち込むのだ)」(大意、まえがきから)
落ち込みの真っただ中にいる私は、この書き出しに引き込まれた。すぐに先生は、こうたたみ込んでくる。
「幸福そうに見える人でも実は何らかの悩みを持っている。にもかかわらずノイローゼになったり、ぼやいたり、浮かぬ顔つきをしないのはなぜか? それは多分、頭を使っているからである」
「心が弱いから、ではなく、頭の使い方を知らないから悩んでいるんだ!」。そう言われたような気がして、なんだかスッキリした。
「弱い心を強くしろ」といわれてもやりようがないが、「頭の使い方を変えてみろ」なら何とかなりそうな気がしてきた。
一念発起して大学院入学へ
「じゃあ、頭の使い方をどう変えたらいいの?」。そんな問いを発しながら、立ち読みの2時間弱で一気に読み切った。我ながらすごい集中力だ。それだけの力が本にあった。
後に知ることとなるのだが、この本は先生が日本に紹介したアルバート・エリスの「論理療法」をベースに、先生独特のわかりやすいエピソード満載で書かれたベストセラーだった。その後、立て続けに国分先生の本を読んだ。
素人の私には手強そうな専門書ももちろんあったが、いったん読み出せば理解できるように、先生の体験談やたとえ話をふんだんに取り入れた、目の前で語りかけるようなものもたくさんあった。読後感は「先生からカウンセリングを受けたらこうなのかな」だった。
私の心は決まった。「国分先生に直接、教えを請うのだ!」。そう決めた時点で「気分の落ち込み」は解消に向かっていた。