ニューヨークのアッパーイーストサイドの投票所。投票までの待ち時間は1時間に及んだ。米国の中間選挙が終わったわ。与党の共和党は上院で勝ったのに、下院では野党の民主党に負けてしまったわね。トランプ大統領にとっては厳しい結果にもみえるけど、これから国内外はどうなるのかな。
日本人も無関心ではいられないトランプ政権の行方について、吉田智子さん(45)と小川めいこさん(47)が小竹洋之編集委員に聞いた。
――米国の政治や社会の分断がさらに深まるのでしょうか。
6日投開票の中間選挙は大方の予想通りでした。共和党が上院、民主党が下院の過半数を抑え、「ねじれ」が生じることになりました。トランプ派と反トランプ派が真っ二つに割れた米国を象徴する結果と言えそうです。
下院を制した民主党は、ロシアとの不透明な関係を巡る疑惑(ロシアゲート)などを理由に、大統領の弾劾手続きや調査に着手する可能性があります。トランプ氏が望む法案や予算を、議会で通すのも難しくなります。インフラ投資は、民主党にも協力の余地がありますが、メキシコからの不法移民を阻む国境の壁建設などは頓挫しそうです。
とはいえ、トランプ氏が「米国第一」の内向き政策を修正するとは思えません。2020年の再選を目指すには、白人層や低中所得層らの支持基盤を固めるしかないからです。保護貿易や移民制限を大統領令で進めたり、大統領の裁量が大きい外交に活路を見いだしたりすることが予想されます。トランプ派と反トランプ派の対立も先鋭化するのではないでしょうか。
――経済が順調な状態はまだ続きそうですか。
09年7月に始まった米国の景気回復局面は、戦後最長の10年を超える可能性が高まっています。トランプ政権の大型減税や歳出拡大などが下支えしています。共和党が、中間選挙で大敗しなかったのは好況のおかげとも言えます。
心配なのは、米国が仕掛けた貿易戦争の打撃です。トランプ政権は国の安全保障を理由に、日本や欧州などから輸入する鉄鋼とアルミニウムに高い関税をかけました。中国には知的財産権の侵害に絞った制裁も発動し、輸入品のほぼ半分に高関税を課しています。米国の物価上昇や中国の景気減速などの影響が出始めています。米連邦準備理事会(FRB)の金融政策運営も気になります。目測を誤って金利を上げすぎると、景気が失速しかねません。
――貿易だけでなく、中国との対立は激しくなりますか。
軍事面でも米国の地位を脅かそうとしている中国には、引き続き強硬姿勢で臨むとみられます。共和党だけでなく、民主党にも賛同者が多いのが実情です。「新冷戦」と言われる米中の覇権争いは終わりそうにありません。
トランプ氏の対外政策には孤立主義に傾きがちな面や、国際的な機関やルールを軽視する面もあります。環太平洋経済連携協定(TPP)や地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」、イランの核開発阻止に向けた包括合意からの離脱が代表的です。こうした特徴も変わらないでしょう。
――日本との関係は変わりますか。
トランプ氏と安倍晋三首相が比較的良好な関係を築いているのは事実でしょうが、友人関係とディール(取引)は別物と言えます。日本に対する貿易赤字にも不満を抱いており、不均衡を是正する具体的な方策を求めてくるのは必至です。
日本と米国は19年1月にも、2国間の新たな物品貿易協定(TAG)の交渉を開始します。トランプ政権は日本から輸入する自動車に高関税を課すと脅しながら、対米輸出の数量規制や為替相場の監視強化などをのませようとする可能性があります。TPPの水準を上回る農産品の市場開放を迫る懸念も拭えません。
北朝鮮の非核化や日本人拉致問題に対する米国の姿勢も気になります。次期大統領選に向けた手柄を焦るあまり、日本の国益を置き去りにしたまま、朝鮮戦争の終戦宣言や北朝鮮の制裁緩和などに応じかねません。
■ちょっとウンチク
いら立つ庶民 支持固く
米国の中間選挙は大統領に対する信任投票の色合いが濃い。公約の達成度に不満を抱く有権者の声を映し、与党が議席を失いがちだ。今回もトランプ大統領に「NO」を突きつける民主党の勢いが勝ったが、共和党は予想以上に負けを食い止めたと言ってもいい。
上位1%の富裕層が富の4割を握り、0.01%の支配層が大口献金で政治を牛耳り、今後30年以内に白人層の人口が5割を割り込む米国――。「国のかたち」の変容にいら立つ庶民が、なおトランプ氏に期待している証拠だ。こうした支持基盤を鼓舞する「米国第一」の政策が失速するとは思えない。
(編集委員 小竹洋之)
■今回のニッキィ
小川 めいこさん ケアマネジャー。介護の仕事で感じたことなどをエッセーにし、2~3カ月に1回、講師に添削してもらう。「2千字程度でまとめるのは難しいが、平易さを心掛けている」
吉田 智子さん システム開発会社勤務。趣味は美術館巡りで、年を重ね、日本画へ関心が移ってきた。最近は東京の国立新美術館の東山魁夷展へ足を運んだ。「青緑を使った作品に癒やされる」
[日本経済新聞夕刊 2018年11月26日付]
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