停電し、明かりが消えたコンビニエンスストアとマンション(9月6日未明、北海道函館市)2018年9月に起きた北海道地震では大規模な停電が発生したわね。一体、どんなメカニズムで大停電は発生したの。他の電力会社でも同様の大停電は起きる可能性はあるのかな。
北海道で起きた大規模停電について、奥村彩香さん(36)と荒川美紀さん(48)が松尾博文編集委員に話を聞いた。
――大停電が起きた原因を教えてください。
9月6日未明に起きた北海道地震の直後に、道内全域が停電する「ブラックアウト」という現象が発生しました。日本で戦後にブラックアウトが起きたのは初めてです。
電気は発電する量と消費量を絶えず同じにしなければならない原則があります。どちらかが大きくなって需給のバランスが崩れると、電気を一定の品質で届けることができず、発電機が壊れてしまうこともあります。そのため、発電機は需給バランスの異常を検知すると、自動停止するよう設計されています。
地震発生時の北海道全域での電気の需要は310万キロワットでした。北海道電力はこれに見合う発電をしていたわけですが、半分以上の165万キロワットは震源地に近い苫東厚真火力発電所が担っていました。苫東厚真が地震で停止して需給のバランスが大きく崩れたため、他の発電所も次々と自動停止し、その結果ブラックアウトが発生したわけです。
――大停電は避けようがなかったのですか。
検証作業の結果、今回のブラックアウトには苫東厚真の停止のほかに、いくつかの要因が重なったとみられています。まず地震で一部の送電線が壊れ、電気を送れなくなりました。また本来はバックアップ機能を持つ京極揚水発電所が検査中で止まっていました。北海道と本州の間には電気を融通し合うための北本連系線がありますが、その容量にも限りがありました。
首都圏や関西圏と比べれば北海道の電力需要は少ないです。関東や関西の電力需要は数千万キロワットにのぼるので、仮に出力165万キロワットの火力発電所が停止してもネットワーク全体で吸収する余力があります。しかし北海道の場合、対応は相当困難です。それだけに、苫東厚真に過度に発電を集中させていたことが大停電の背景にあるといえます。
――北海道電力の経営環境の問題もあるのですか。
一つは出力207万キロワットの泊原子力発電所が停止していることが挙げられます。2011年の東日本大震災の後、国の方針によりすべての原発の稼働を停止し、新しいルールに沿って安全性を高める取り組みが進められました。泊原発については、新ルールでの審査がまだ終わらず、停止したままです。泊原発が稼働していれば大停電は回避できたかもしれませんが、だからといって安全性をないがしろにするわけにはいきません。
16年4月に始まった電力小売りの全面自由化との関係もあるのではないでしょうか。自由化で消費者はどこからでも電気を買えるようになり、事業者は選んでもらうために安い価格を用意することが求められます。発電コストが低いとされる原発が停止する中で、北海道電力は東日本大震災以降、2度値上げし、全国的にみて最も電気料金が高くなっています。新規参入組に顧客を奪われることも多く、最新かつ大型のため発電コストが低い苫東厚真発電所への依存度を高めていった部分があるのかもしれません。
北海道電力も手をこまぬいていたわけではありません。高効率の液化天然ガス(LNG)火力発電所として石狩湾新港発電所を建設するとともに、北本連系線の増強を進めています。しかしともに本格的な運転開始は19年以降で、間に合いませんでした。
――他の電力会社でも大停電は起きうるのですか。
北海道に比べれば大停電が起きる可能性は少ないように思います。他の電力会社では発電所が比較的分散し、地域を越えて電気を融通し合う仕組みが複数用意されています。とはいえ首都直下地震などで東京湾岸の発電所がすべて停止する事態となれば、本当にブラックアウトを回避できるのか懸念もあります。
■ちょっとウンチク
分散電源の役割に注目
北海道を地盤とするコンビニエンスストア、セイコーマートはブラックアウトの際、約1100ある店舗のうち、1050店で営業を続けた。自動車の電源を使って最低限の電力を確保する「非常用キット」を店舗に備えていたためだ。
また、家庭の屋根に置く太陽光発電パネルでつくった電気は普段北海道電力に売っている。しかし今回の停電時には自分の家で使う「自家消費」に切り替えて、日中の電力を確保した家庭も多い。
北海道大停電は安定供給の維持へ、発電した場所で、電気を使う分散電源の役割に目を向けるきっかけにもなったのではないか。
(編集委員 松尾博文)
■今回のニッキィ
荒川 美紀さん 就職活動や企業内の能力開発などに関して助言する「CDA」の国家資格取得を目指している。「それ以外にも3年ほど、いろいろな講座を受けるなど勉強してきました」
奥村 彩香さん 来春に子供が小学生になる準備に追われている。これまで保育園での夕食後に迎えに行っていたが、今後は迎えに行く時間が早くなりそう。「わが家も働き方改革実行中です」
[日本経済新聞夕刊 2018年11月19日付]
※「ニッキィの大疑問」は原則月曜更新です。
本コンテンツの無断転載、配信、共有利用を禁止します。