「世界の中の日本」知ったかぶり
立川談笑
落語家が師弟でつづるリレーエッセイ。今回は師匠である私、立川談笑の番です。ジャンルを設定せず、ちょっと面白そうならばと、まさに手当たり次第。読者の皆さんにとって話のタネにでもなればという思いです。気楽にお付き合いください。
古典落語には知ったかぶりをして失敗する話がいくらもあります。「やかん」「千早ふる」「手紙無筆」などなど。「転失気(てんしき)」で登場するのは知ったかぶりの和尚さんです。医学用語でおならを意味する「てんしき」を酒を飲む杯と取り違えて、お医者さんの前で赤っ恥をかくことになります。
私もちょっと知ったかぶりをして、「知ってそうで意外に知らない、かも?」な「世界の中の日本」に関するデータをご紹介します。クイズ形式でお楽しみください。
■時代が変われば順位も
Q 世界で人口の多い国、1位と2位は?
最初は易しい問題。1位が中国、2位がインド。昔教わった通り、変化なしです。ところが今は、どちらも13億人台とかなり近接しているんです。なんでも、「インドの人口は2024年ごろまでに中国を追い抜き世界首位になる」なんて国連の最近の報告もあるのだとか。ちなみに3位は米国。日本は「7位くらいかな?」と思っている人が多いのではないでしょうか。それは1990年代までの話で、現在はメキシコのすぐ下の11位になってます。
Q 平均寿命の長い国。1位は日本で84.2歳。では、2位と3位はどこの国?
2位はスイスで83.3歳、次いで3位がスペイン。ふうん、そうか。ってな感じですか。ただ、トップの日本が2位とほぼ1歳近くの大差をつけているのが、すごい。いわば独走状態です。2位以下はずっと僅差が続きます。今シーズンのプロ野球セ・リーグみたいです。広島東洋カープ、強いもの。福岡ソフトバンクホークスとの日本シリーズが楽しみです……おっと、話がそれました。
平均寿命が80歳を超える国は、珍しくないんです。10位のノルウェーでも82.5歳。高齢化の波は日本だけの話ではない、ということでしょうか。
Q 日本の国土の広さは、世界第何位?
答えは61位。日本の国土は38万平方キロメートル。ロシア、カナダに次いで第3位の米国と比べてみても、約25分の1です。さすが島国。ちっちゃい~!
とはいえ、「だいたいそんなもんだろ」ってなとこですよね。わはは。いやいや、これは次への前フリです。
Q 領海に漁業や資源開発などの権利を持つ排他的経済水域(EEZ、海岸線から200カイリ=約370キロメートル)を加えた広さで、日本は世界第何位?
これ、6位なんです。くう~、広い! 広すぎる。日本の海洋資源はたっぷりあります。そして1位は、なんと米国。日本のおよそ2倍。アラスカのほか、ハワイやグアムといった諸島が大きく貢献してるんです。
Q コメの生産量。日本は世界で何位?
ベスト10にも入らない13位。意外に少ないと感じませんか? 1位が中国、2位インド、3位インドネシア。日本の800万トンに対して中国は2億トン。約25倍ですって。品質では日本のコメはゆるぎない1位だと信じているんですが。
Q 1日あたりの原油生産量の多い国。世界トップ3は?
中東が席巻していると思いきや、1位は米国、2位がサウジアラビア、3位はロシア。近ごろなにかと話題の国々です。この3カ国は日量1000万バレル以上。4位のイランから生産量がガクンと落ちて、半減します。またトップ10には中国、ブラジルがランクインしてます。ランク外で残念だけど、日本だって日量1万バレル。
■面白がっても疑って
さあ、いかがでしたか。まさか冒頭の落語に出てくるような、苦しまぎれのでたらめを並べたわけではありません。ただ、書いていてなんなんですが、こうしたデータというのはあくまでも物事の一側面。断片です。何かの生産が多いことが優れているとは必ずしもいえませんし、なにか別の意図が隠れていることも多いものです。「談笑は世界情勢に明るい」と思われたい、そんな下心がないとも限りません。
ホントのところ、私が頭に蓄えた知識を披露したわけでは決してないんです。外務省のホームページ内にある「キッズ外務省」を見て書いただけなんですから。
落語ではもっともらしく話す人物がいて、それを面白がりながらも、ちゃんと疑ってかかっている相手がいます。ここが、いいところ。読者のみなさまも「おまえ、カンニングしただろ」と思っていただけたら……。えっ、どうせそんなこったろうと思ってた!? いやいやお恥ずかしい限りです。
もうひとつ、わが身の恥を思い出してしまいました。はじめにふれた古典落語「転失気」の中でお医者さんが紹介する「傷寒論(しょうかんろん)」。これは古くから伝わる実在の医学書なんですが、つい先ごろまで私は、落語の世界のフィクションだと思い込んでたんです。世界のデータを比較している場合じゃないですよね。白状しながら、恥ずかしさがこみあげます。弟子たちが同じ思いをしないよう頼んでみようかな、文科省に。……「キッズらくご」。
1965年、東京都江東区で生まれる。高校時代は柔道で体を鍛え、早大法学部時代は六法全書で知識を蓄える。93年に立川談志に入門。立川談生を名乗る。96年に二ツ目昇進、2003年に談笑に改名、05年に真打ち昇進。近年は談志門下の四天王の一人に数えられる。古典落語をもとにブラックジョークを交えた改作に定評があり、十八番は「居酒屋」を改作した「イラサリマケー」など。
これまでの記事は、立川談笑、らくご「虎の穴」からご覧下さい。
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