IT業界から熱燗の伝道者に 減収覚悟で転身の先見

増えた時間で人間ネットワークを広げる

しかし、「彼女」はどうだろう? 33歳のつけたろうさんには「将来を誓った女性」がいた。

梶原「都内からの転居だけでも、都内在住の彼女にとってショックだったはず。そのうえ、IT企業の管理職から、先の見えない熱燗イベント業への転身と、唐突に言われたら考えちゃうでしょう」

ところが、彼女は意外な反応を見せたという。

彼女「もしあなたのその生き方に私の存在が負担だと感じるなら、私は身を引きます。そうでなければ、これまで通りのお付き合いを、私は希望します」

彼の父親に負けず劣らず、彼女も根性が座っている。

梶原「彼女がよくても、彼女の両親は娘の将来が不安なんじゃないかなあ?」

つけたろう「彼女のご両親に半年ほど前、お付き合いしている旨のごあいさつにうかがったときは、IT企業の管理職として、バシッとスーツを着てお目にかかり、好印象を得られています。今もそのイメージで私たちのことを考えてくださっていると思いますんで、当分は大丈夫。今度お目にかかるときには、『熱燗DJつけたろう』として新分野で成功したときにと考えています」

そんなわけで、とりあえず、自分の両親、彼女、彼女のご家族、会社とも「円満な状態」で新しい人生を歩み始めたつけたろうさん。

梶原「サラリーマン人生から自営業に転職して2カ月、もうかってますか?」

相変わらずぶしつけな質問をしてしまった。

つけたろう「預金通帳見たら1万円! 彼女に会うために東京へ行く電車賃にも事欠きますが、野菜は無料で食べ放題ですし、熱燗イベントに使う日本酒のストックはサラリーマン時代にそろえた100升近く残ってますから、飢え死にしない程度の暮らしはできてます」

梶原「なーんて言いながら、顔色がいいですねえ、楽しそうですねえ!」

つけたろう「見通しだけは明るいです。会社に行かず、暇な分だけ、人と会ってじっくり話をする時間がある。人のネットワークが思った以上に広がって、ちょこちょこ声をかけてもらってます」

先が見えないのは、誰しも同じ

梶原「安定した管理職という、先が見えやすい人生から、熱燗DJという、まるで違った世界への転身。こういう劇的な変化って、不安じゃないですか?」

つけたろう「IT業界に10年いたからつくづく思ったのかも知れません。この10年でスマホもSNS(交流サイト)もAI(人工知能)も、そしてそれによる我々の生活もどんだけ変わったか。この先の変化はさらに加速することでしょう。すなわち目先のことにとらわれてくよくよしたり落ち込んだりしているうちに、世の中のほうは問答無用に猛スピードで変化し続けるはずです」

梶原「言われてみれば、メディアがよくやる、5年後はこうなる、10年後の未来予測とかの企画。後で読むと、とんちんかんなのも結構ありますねえ」

つけたろう「乱暴に言えば、5年後、10年後に世の中が、自分たちがどうなっているかは、急速なテクノロジーの進化を考えると、分からない。先が見えないのは、何も熱燗DJの私だけじゃない。見えない未来を憂えるより、『これだ! これをやっている自分が一番生き生きしている』。そんな衝動に身を任せるのも悪くない気がするんです」

熱燗DJつけたろうさんは一見、無鉄砲なようで、実は冷静に世の中を見ているような気がしてきた。

※「梶原しげるの「しゃべりテク」」は毎月第2、4木曜更新です。次回は2018年8月9日の予定です。

梶原しげる
1950年生まれ。早稲田大学卒業後、文化放送のアナウンサーに。92年からフリー。司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)。「日本語検定」審議委員。著書に「すべらない敬語」「まずは『ドジな話』をしなさい」など。

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