「好き」を究める勇気を持とう さらば万能選手

2018/2/21

セカンドキャリアのすすめ

狭く濃い分野に特化すれば、自分ブランドを確立しやすくなる 写真はイメージ=PIXTA
狭く濃い分野に特化すれば、自分ブランドを確立しやすくなる 写真はイメージ=PIXTA

現在、私は肩書を聞かれたら「ブランドクリエイター」と答えています。経営コンサルタントなのですが、それではあまりに広い。戦略、財務、人事、組織開発など、経営に伴う課題は山ほどあります。それを全部やりますよ、というのはデパートみたいなもので、私のような小さな会社では覚えてもらえません。専門ブティックとして旗を立てる意図をこめ、「ブランドクリエイター」としています。

ある神社の再興に関わることになりました。神社にもブランドがあります。「学業」「交通安全」「縁結び」など、著名な神社はいずれも「一つの売り」でブランド化しています。

くだんの神社の境内に立ち、周囲を眺めながら考えました。欠けているものは何か、恵まれているものは何か。それらの要素を分析しているうちに、ふと、アイデアが下りてきます。それは瞬間と言ってもいいぐらいに、突然。たちまち、そのアイデアが形をなし、「一つの売り」が見えてきて、コピーになりました。これならブランドになる!

その間、わずか30分。考えているときは、わくわくしていました。そんなとき、心底、この仕事=「ブランドづくり」が好きなんだなあと思います。

オールラウンドプレーヤーは「オール3」になるのがオチ

大企業にいると、どうしてもあれもできて、これもできるという万能型のオールラウンドプレーヤーを志向しがちです。人事評価も「バランス」を重視する設計になっています。しかし、学校時代を思い出してください。5段階評価の3を5に引き上げるより、4を5にするほうが近道です。オールラウンドプレーヤーは「オール5」を目指すのが建前ですが、人間、そう都合よくはできていません。するとどうなるかというと、オール3になってしまいがちです。

これでは大企業の看板がはずれたとき、何が売りだかわからない人間に育ってしまいかねません。「バランスがいい」「まあ一応、たいていのことはそこそこできる」という人がセカンドキャリアを描くのは難しいものです。実は会社員時代の私がこのメンタリティーにはまっていました。学生時代から優等生志向だったので、「すべてをちゃんとやらなきゃ」という意識がどうしても働くのです。

建材の営業をしていたので、図面の読み取りは必須です。見積もりも自分でやる必要があります。簡単な納まり図(建具やサッシなどの配置関係を示す図)ぐらい、ササッと描けなければ仕事になりません。ところが、残念なことにこれら全部、私は苦手でした。なにしろ中学時代は技術家庭科目がとことん苦手で、ラジオを作るという課題に手を焼き、友だちに代理で製作してもらったほどです。

苦手なものは何をやっても得意にならないし、好きになれないものです。上司からは「君は本をよく読んで勉強家なんだから、もっと建築についての知識も増やしたまえ」と言われていましたが、知らん顔をしていました。無理なものは無理だし、好きになれないものは好きになれないのですから、仕方がありません。

「仕事をくれて、もうけさせてくれる人」がいい人

独立自営の世界で「いい人」というのは、人格的に優れているという点はもちろん大事ですが、それだけでは足りません。何であれ仕事を1人ですることはなく、誰かと組みます。映画を作ることをイメージしてください。映画も多くの人が力を合わせて制作する共同作業です。さて、どんな監督がみんなから慕われるでしょうか?

現場での人当たり? 演技への真摯な態度? 幅広い視点? 作品の芸術性の高さ? もちろんそれらは重要です。しかし、非常に単純化して言ってしまえば、「次の現場も声をかけてくれる監督」です。

スクリプター(記録)にせよ、カメラにせよ、俳優にせよ、「次の作品」で仕事をくれる人がいい監督なんです。そして、監督にとって「次の作品」があるということはすなわち、今撮っている作品が売れることです。具体的には観客動員が利益を出す水準に達していることを意味します。

私が誰かと仕事するときに意図しているのは、「組んだ相手がもうかるようにする」ことです。これでお互いに「また、次もやろうか」となります。

では、もうけるためにはどうすればいいのか? 「レア」な分野でとんがることです。人が少なければ少ないほど、お金が回ってきます。

ここで話は戻ります。オール3のメンタリティーではレアを目指せません。誰も手を出していない、「それって何?」という分野で5を取ることが肝心です。

若手研究者の増井真那さんは2001年生まれのティーンエージャーですが、変形菌の研究で知られています。「変形菌といえば、増井真那」というブランドが出来上がっています。5歳で出会い、6歳から飼育を、7歳から研究を始めたといいます。日本学生科学賞、内閣総理大臣賞、国際賞(Broadcom MASTERS International)など受賞は多数。著書もあります。普通の人にとっては「そもそも変形菌って何?」という話ですが、狭く濃い分野に特化したからこそのブランドなのです。

「捨てる勇気」を持とう

狭く濃い分野に特化するということは、他のものは捨てるということです。捨てるには勇気が必要です。とりわけ学校教育で「苦手科目は克服すべきもの」と教え込まれた私たちには苦手なことです。しかし、かくいう先生にしても、数学が苦手だったから英語の先生になったのだろうし、「机に座って勉強なんてやってられっか!」と思って体育の先生になったはずです。

現在の私は「やらない」と決めたことは徹底してやりません。ごく最近のことですが、オフィスとして使っているマンションの大規模改装工事に伴い、ベランダ側窓の網戸を取り外す必要がありました。ちょっと自分でやってみましたが、時間が惜しい。生来、不器用なので、時間がかかりそう。そこで、施工会社に連絡して、取り外してもらいました。

好きこそものの上手なれ

「知好楽遊」というフレーズがあります。知ってる人は、好きでやってる人にかなわない。好きでやってる人は、楽しんでやっている人にかなわない。楽しんでやってる人は、遊んでいる人にはかなわない。『論語』の「知好楽」が由来です(雍也第六)。

読者のみなさんにも、好きで仕方のない何かがあるはずです。それがどんなに狭くてもいい。究めてみましょう。

よく、資格を取ろうとする人がいます。私の会社員時代も、宅建(宅地建物取引士)の資格を取ることが流行ったことがあります。でも、私には全く興味がなかったし、建材営業の仕事にどう役立つのか見えませんでした。もし、その資格が、自分の好きを究める分野であれば、挑戦するのもいいでしょう。しかし、「資格のための資格」はセカンドキャリアに何の役にも立ちません。

そもそも「資格」というぐらいだから、体系化された知識が存在します。つまり、レアではないわけです。知識が体系化されていなくて、よくわからないのがレアです。闇夜を懐中電灯1つで歩くような心細さを感じるかもしれません。でも、そんな道中すら、好きなら楽しめてしまうものです。勇気を出して、「好き」を究めてみましょう。

「セカンドキャリアのすすめ」は水曜更新です。次回は2月28日の予定です。

阪本啓一 経営コンサルタント、ブランドクリエイター。1958年生まれ。大阪大学人間科学部卒。旭化成で建材営業に従事したのち、2000年に独立。経営コンサルティング会社「JOYWOW」を創業。著書に『「こんなもの誰が買うの?」がブランドになる』など。

「こんなもの誰が買うの?」がブランドになる 共感から始まる顧客価値創造

著者 : 阪本 啓一
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,728円 (税込み)