東村山うどん、ほんのり茶色 豚バラ肉入りのつけ汁で
東京の西郊とその北の埼玉県南部にかけて広がる「うどん文化圏」の存在を知ったのは、東京で唯一鉄道の駅がない武蔵村山市にうどんを食べに行ったときでした。地粉、手打ち、つけ麺スタイル。そのうどんは讃岐うどんをしのぐ野趣を備えていました。
今回の食の景観の舞台は、その隣の東村山市です。最初に訪ねた店では、開店前に平均年齢70歳という3人の女性がうどんを踏んでいました。ヒョコヒョコ、グイグイ、コネコネと足先、かかとを使って、固いうどんの玉をこねながら空気を抜き、コシを与えていきます。そのリズム感と体の動きは、見ていて飽きません。
そうして出来上がったうどんは少し茶色味を帯び、かめば口の中に小麦の味と香りが広がります。
3軒の店でうどんを食べました。店それぞれにうどんの太さ、長さ、そして味わいが異なります。付け汁も店ごとに工夫があります。どの店も「大したもんだ」とうならせてくれました。
最後に小麦農家を訪ねました。東京都内、しかも都心への通勤圏とは思えないほど広い畑で小麦を栽培しています。その農家で地粉100%のすいとんをごちそうになりました。
一口食べて声を失いました。ああ、これが小麦か。本当の地粉か。
「地粉をこねると茶色になるのはどうしてですか?」
「茶色の外皮も砕いて製粉します。ふるいにかけるのですが、うんと細かい外皮がどうしても混じるので、水を加えるとその色が出るのです」
私の質問に農家の方は、そう答えてくれました。
茶色のすいとんを口に運ぶたびに小さなため息が出ます。
「今まで食べていた小麦粉は一体何だったんだ」
輸入ものの小麦が少なかったころ、私もこんな地粉を九州で食べていたのかもしれません。そう考えると急に根拠もなく懐かしくなりました。
(食と旅のコラムニスト 野瀬泰申)
「知る食うロード~発見!食の景観~」は、全国各地の食材や料理を探索し、秘められた物語や歴史を丸ごと「景観」として発見する番組です。これまでの旅、グルメ番組とは一味違った視点で日本を巡ります。BSジャパンで、毎週土曜日夕方6時から放映中。
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