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UCC上島珈琲 マーケティング本部グルメコーヒー事業部のプロジェクトリーダー、進裕子さん

UCC上島珈琲 マーケティング本部グルメコーヒー事業部のプロジェクトリーダー、進裕子さん

UCC上島珈琲で商品企画を担う、マーケティング本部グルメコーヒー事業部のプロジェクトリーダー、進裕子(しん・ゆうこ)さんは研究職の出身だ。フランスと手を組んで、稀少なコーヒー種の再生に挑んでいる。研究職から転じて、人を巻き込むマーケティング本部で新規事業を任される30歳に仕事への情熱やダイナミックなキャリア選択などを聞いた。

◇  ◇  ◇

UCC上島珈琲は1933年に神戸市で創業した会社です。以来、世界中のおいしいコーヒーを日本に紹介することはもちろん、世界初の缶コーヒーや日本初の真空包装レギュラーコーヒーの開発、「UCCコーヒー博物館」の設立などを通じて、日本のコーヒー文化の裾野を広げてきました。

近年は街角でコーヒーを手軽に楽しむカフェ文化が定着。品種や産地、抽出方法などにもこだわって楽しむサードウエーブスタイルも浸透してきました。コーヒーを取り巻く環境はとても豊かになりました。UCCはさらなる新規市場の開拓にも取り組んでいます。私は新規開拓プロジェクトのリーダーとして、ふだんはコーヒーを飲まない人にもコーヒーを楽しんでもらうにはどうしたらいいかを考えている毎日です。

繊細な豆のダイナミックなプロジェクトを率いる

新規事業と同時に私がプロジェクトを任されているのが、UCCの中でもひときわ個性的な「ブルボンポワントゥ」というコーヒーです。これは生産が途絶えてしまっていたブルボン種の原種を探し出し「種の再生」に挑んだ、あしかけ18年に及ぶプロジェクト。原産国であるフランスと共同で進めています。日本に紹介されて2017年で11年目を迎えました。

コーヒーは農作物だから、同じ品種であっても、年や場所によって差が生じます。「ブルボンポワントゥ」は1年に1度だけしか輸入されないので、毎年、最高のタイミングを見計らって収穫しています。現地での品質チェックで合格した豆をさらに厳選し、専門家である焙煎(ばいせん)士とともにその年の豆の特長を生かした味づくりを熟慮して発売に臨みます。

もともと豆の収穫量が少なく、性質もとてもデリケート。だから、こまやかに神経を配る必要があります。その一方で、社をあげて取り組んでいるプロジェクトだけに、ダイナミックな動きも必要。一筋縄ではいかない仕事です。担当して3年になりますが、初年度は本当にてんてこまいでした。責任は大きいですが、社内外の多くの人の夢やロマンが詰まった特別なコーヒーのプロジェクトを受け継ぎ、任されていることに、とてもやりがいを感じます。

研究業務をしながら、商品開発に挑戦

私は入社して3年間はR&Dセンター(当時)と呼ばれる、神戸市にある研究部門に所属し、業務用コーヒーなどの味覚設計を担当していました。何タイプもの配合、焙煎が異なる豆を作っては飲み比べ、成分を分析する仕事です。その当時は白衣を着て働いていました。

通常業務と並行して、個人的な興味から進めていたのが「レギュラーコーヒーを使って簡単においしいカフェオレができるパックを作れないかな?」という発想に基づく商品開発でした。「市場性はあるのか?」「使い勝手としてこれでいいのだろうか?」と、次々に出てくる課題をクリアしようと、社内調査をしたり、東京のマーケティング本部にも足を運んだり、いろいろな部署に協力してもらっていました。結局、そのカフェオレパックは商品化できなかったのですが、そんな活動が目に止まったのでしょうか、マーケティング部門へ異動することになり、今に至ります。

研究部門とマーケティング部門との懸け橋に

新しいことにチャレンジできる環境はうれしかったものの、生活の場が変わることは個人的には大きな変化でした。正直、不安が大きかったです。でも、私がマーケティング部門へ行くことによって、「研究と商品開発の懸け橋になりたい」と思いました。それまでの仕事では部門間の隔たりや物理的な距離のせいでコミュニケーション不足を感じたことがあったからです。

分析や検証という手法、香りや味わいをデータから見る視点など、それまで研究部門で培った知見や経験をマーケティングに活かしたいという思いは、今も変わりません。17年の「ブルボンポワントゥ」では豆の特性である繊細な香りを最大限に活かすために、例年以上に焙煎に科学的分析を持ち込み、その香りを余すことなく届けられる機能的なパッケージを開発・採用することができました。新しいアプローチができたのではないかと思っています。

生産が途絶えていたコーヒー種「ブルボンポワントゥ」の再生に挑んだプロジェクトも手掛けている

生産が途絶えていたコーヒー種「ブルボンポワントゥ」の再生に挑んだプロジェクトも手掛けている

のっぺらぼうな商品は作りたくない

マーケティングや商品開発は自分ひとりでは進めていけない仕事です。たくさんの人を巻き込んでいかなければいけません。チームで進める仕事は難しさもありますが、プロジェクトマネジメントの醍醐味も感じています。

私はのっぺらぼうな商品は作りたくないです。協力を仰いでやってもらう前に、まずはそもそも魅力的なプロジェクトにしたい。「こんな面白いことを始めようと思っています。一緒にやりたい人、この指止まれ」と声をあげて仲間を広げていけたら最高だと思っています。そうして集まった人たちの力が結集してカタチになり、多くの人に「これ、自分たちがやったんだ」と誇らしげに言ってもらえたら素敵(すてき)です。そのためにも、魅力的な企画の種をまずは自分が率先して考えていかなければいけないと思っています。

目指すべき人たちが近くにいる環境に感謝

私はまだ30歳代になったばかりです。若いうちからチャレンジする場をもらえたことにも、周囲に「こうなりたい」と思える目指すべき人たちがいる環境にも感謝しています。1人で仕事を抱え込みがちだった私ですが、上司たちのおかげで、この数年でずいぶん変わりました。相談しやすい空気があることがありがたいです。

自分自身が面白いと感じることの大切さ、一緒に仕事をする人たちをよく見てそれぞれの得意技を見抜くことなどは、今の上司から学んだことです。年齢や立場などに関係なく、時には自分がばかになってでも周囲に教えを請う上司の姿を見たときには、ハッとしました。私にはなかった姿勢だったので衝撃を受けました。人を巻き込んでプロジェクトを進めていくとはどういうことなのか、考えさせられます。

社内には子育てしながら活躍している女性の先輩がたくさんいます。私も会社員として仕事をしながら、いずれは母親という仕事もしたいと思っています。どちらも諦めたくないです。

知れば知るほど面白い

今は企画を考えることが楽しくて、休みの日でもつい仕事のヒントを探して町を歩いてしまいます。インテリアショップなどにもよく足を運びます。先日は個人的に「ジャパン ハンドドリップ チャンピオンシップ(JHDC)」というコーヒーの抽出競技大会にも出かけてきました。お店の人やコーヒー好きの人たちがどうやって抽出しているのか、そして、1杯のコーヒーにどれほどの情熱を込めているのかを知ることができ、とても刺激になりました。

つくづくコーヒーとは面白い飲み物だと思います。何の変哲もない黒い液体なのに、選ぶ楽しみ、いれる楽しみ、一緒に飲む相手、食べ物との組み合わせによって変わる楽しみなど、たくさんの側面があります。しかもそれが人と人とをつなげてくれる存在だというのが大きな魅力です。携わるほどに面白みを感じるコーヒーの魅力を、これからさらに多くの人に広げていきたいと思っています。

取材後記

UCC東京本部に併設されたショールームで行われた今回の取材。進さんがいれてくれた「ブルボンポワントゥ」のいい香りに包まれたインタビューとなりました。コーヒーアドバイザーや管理栄養士の資格も持っているそうで「探究好きです」という言葉にも納得。最近のお気に入りのコーヒーは「ケニアのコーヒー」とのこと。「明るい酸味が好きで、柑橘(かんきつ)系のフルーツに合わせると味わいが変化しておいしいんです」とにっこり。言葉をゆっくり選びながら質問に答える姿が印象的でした。

進裕子
 UCC上島珈琲マーケティング本部グルメコーヒー事業部のプロジェクトリーダー。2012年UCC上島珈琲に入社。R&D部門を経て、15年からマーケティング本部。グルメコーヒー事業部で「ブルボンポワントゥ」プロジェクトリーダーを務めるほか、新規事業を手がける。鳥取県生まれ。

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