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熊本地震の試練、九州新幹線復旧で「絆」実感  成功の陰に笑いあり(14) 九州旅客鉄道会長 唐池恒二氏

2017/12/1

全線復旧し、JR博多駅を出発する鹿児島中央行きの九州新幹線(4月27日午後)

 九州旅客鉄道(JR九州)の唐池恒二(からいけ・こうじ)会長の「仕事人秘録」。第14回は九州新幹線の2016年熊本地震での被災について語ります。

――九州で初めての震度7を観測する地震が発生し、試練が襲った。

 2016年4月14日夜に熊本県益城町で震度7を観測、九州新幹線の回送列車が熊本駅近くの線路上で脱線して全線で不通となりました。その後も震度6強などの地震活動が一向に収まらない。1日も早い復旧は鉄道の使命ですが、復旧活動をする社員の2次災害は避けなければいけない。大きな地震が一段落するまで車両の撤去作業は控えました。これが功を奏しました。

 国鉄に「非常事態が起きたら、一服するまで待て」という言葉があります。すぐ復旧工事に取りかからなかったことで、じっくりと対策を考える時間ができました。中越地震で上越新幹線の脱線を経験したJR東日本から助言を得て、JR東海やJR西日本からは現地に社員を派遣してもらい、脱線車両をレールに戻すために必要なジャッキや土台となる木材を借りることに。完璧な準備が整った。

 18日にあった経営会議。いつにも増して明るく元気に議長役を務める青柳(俊彦)社長の姿が。私は最後にきょうの青柳社長は立派だとほめました。新幹線が脱線し、地震で多数の死傷者が出て心が痛みますが、リーダーに元気がないと部下の心も沈みます。「青柳社長を見習おうじゃないか」。檄(げき)を飛ばしましたよ。その日から新幹線の撤去作業が始まりました。

――災害の度に絆を確認。

 19日に脱線現場を視察。社員は睡眠不足で疲れ果てているけれど、激励して握手をすると喜んでくれまして。私は何もできないのでね。「君たちが頑張っているのを見ているぞ」と伝え、一生懸命に立ち向かってもらいたかった。

 脱線現場はカーブでジャッキを使って車両をレールに戻すのは難仕事でしたが、周到な準備のおかけで一発で成功。これは世界でも珍しい。過去の震災の教訓で構造物に高い耐震性を採用したことで致命的な損傷もなく、早期の全線再開が視界に入ることに。

 23日に利用者が最も多い博多-熊本が再開。午前11時51分の博多発の初便に乗り込み、順調に走行する列車の中で社員の姿が思い浮かんできましてね。14日の地震直後、熊本支社の社員は制服姿で駆けつけ、1時間後には全員が必要な持ち場に。自らも被災したが、鉄道マンの使命を全うしましたから。熊本駅に到着すると、青柳社長とホームの階段前で「ここまで来たな」と握手を交わしましたね。27日午後2時36分、地震発生から13日目で全線再開にこぎつけることができました。

 「新幹線が再開してくれてうれしい」。お客さまからのありがたいお言葉を我々は強く受け止めなければいけません。今回はさすがに笑いは届けられませんが、安心安全な鉄道で元気を届けるのが使命です。5年前の九州新幹線の全線開業で九州が一つになったという気持ちを忘れずに、いち早い復興を地域と遂げたい。

[日経産業新聞2016年5月5日付]

仕事人秘録セレクションは金曜更新です。次回は2017年12月8日の予定です。

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