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日本人初の米ペンタゴン勤務 英語がこじ開けた扉

2017/11/22

ダイアモンドランゲージスクール 中野敬子校長

 英語力を強みに防衛省で15年にわたって働き、米国防総省(ペンタゴン)で初の日本人ワーカー(防衛省からの派遣として)となったのは、ダイアモンドランゲージスクールの中野敬子校長だ。国際舞台で出会った世界のリーダーたちのコミュニケーション術にヒントを得て、新たな英会話教育を提唱している。日本人が目指すべき「非ネイティブ」の英会話、達意の語り口などについて聞いた。

■ネイティブ流英会話を目指す必要はない

 英語は、好むと好まざるに関係なく世界の共通言語であり、世界の人たちとコミュニケーションを取るうえでとても便利なものです。英語を話す世界人口は約22億人といわれていますが、実はその80%がネイティブスピーカー(英語を母国語とする話し手)ではありません。母国語ではない英語でコミュニケーションしている非ネイティブがほとんどなのです。

 日本の英語教育の場ではネイティブの英語を目標にすることが珍しくありませんが、ネイティブの発音や表現を追い求めなくても会話は成り立ちます。日本人にとって使い勝手のいい英会話術を身につけて、思いを伝えられればそれでいいのです。世界中の非ネイティブの人たちと同じように、日本人にとっても英語をもう一つの言語にしたい。それが私の夢です。

■シンプルな45個の動詞で話す

 日本では中学時代に1500語、高校で3000語の単語を学ぶといわれています。既に持っている英語の知識を「話す英語」に活用できれば、コミュニケーションに役立ちます。シンプルな英語を使って、言いたいことを直感的に口にできる英語の感覚を身につけるためには、とにかく英語を口に出すこと。大量のアウトプットトレーニングが重要です。

 英会話に悩む人は、言いたいことはあるけれど言葉が続かないという人が多いようです。「I(アイ)」の次の動詞で迷ってしまうのです。そこで私はget、have、makeなど、シンプルだけれど重要な45の動詞で会話を組み立てる英会話メソッド「English Core(イングリッシュ・コア)」を考えました。

 現在このメソッドに基づいて、ダイアモンドランゲージスクールでは3歳から80歳代まで幅広い生徒さんに英会話レッスンを行なっています。企業向けにもビジネス英会話研修やエグゼクティブ向けプライベート研修などを提供しています。最近ではビジネス英語アプリの開発にも力を入れていて、業界別で実践的に学習できるコンテンツを増やしているところです。

■ヒントは世界のリーダーたちのコミュニケーション術

 シンプルな単語で直感的に話す英会話で構わないということを私に教えてくれたのは、防衛省時代に出会った世界のリーダーたちでした。国を背負い国際舞台に立つリーダーたちの言葉はシンプルでわかりやすく。クリアーです。言葉に情熱が宿っていて、単純な言葉でも思いが伝わってきます。彼らのコミュニケーション術に接して、専門的な言葉や難しい表現よりも、思いを口にできる直感的な文章力とシンプルな単語選びこそが大切であることに気づいたのです。

 一方、国際舞台では残念ながら日本人の英会話コミュニケーション力が世界の中で見劣りすることにも気づかされました。このままでは外交やビジネスなど、あらゆる分野で日本人の発信力や影響力が低下してしまうという危機感すら覚えました。

■入庁2年目で防衛庁大臣通訳に抜擢

 私は日本の大学で国際政治学を学んだ後、英ロンドン大学大学院へ進学し、国際政治の知識と語学力を身につけました。そして帰国後、公務員試験(防衛庁職員採用試験)を経て防衛庁(現防衛省)に入庁。1年目はお茶汲みやコピー取り、翻訳業務などをしていたのですが、2年目になって大臣通訳に抜擢されたのです。

 それまでは大舞台での通訳経験もありませんでした。「間違って訳してしまったら大変」と、毎日汗がドバドバ出ていたことを覚えています。その後、歴代6人の大臣通訳を務め、国際情勢の分析や国際広報の業務にも携わりました。その間、国際会議などの場で世界のトップたちの近くで過ごす機会を多く得られたことは本当にラッキーでした。

英会話のアプリでもシンプルな動詞を使った英会話を手ほどきしている

■ペンタゴンの重い扉が開いた

 キャリアの転機になったのは、ペンタゴンでの勤務です。人事院を通じて日米の政府間職員を交流させる計画は以前からあり、米国職員が防衛省に来ることはあったのですが、逆にペンタゴンで日本人が受け入れられたことは一度もありませんでした。私が第1号として受け入れてもらえることになったのは39歳のことです。

 タイミングもよかったのだとは思いますが、これまで国際舞台の片隅で地道に積み上げてきた信頼が実を結んだことをとてもうれしく思いました。ただ、個人的にはちょうど結婚しようと思っていたタイミングでもあり、まさか米国に受け入れてもらえるとは思っていなかったので、戸惑いました。でも、もうこれは行くしかないと単身、渡米したのです。

■英語なら世界に同時発信

 ペンタゴンでは広報の仕事を担当しました。米国の情報を世界に発信する役目です。日本でも国際広報をやっていましたが、最も違いを感じたのは、やはり言葉の問題でした。日本では国内広報と国際広報が分けられていましたが、米国では一つ。英語で発信すれば、同時に国内にも世界にも同じ言葉で伝わっていくのです。英語圏では当たり前のことなのですが、その同時性と直接性、世界との壁のなさに驚きました。

 ペンタゴンでの仕事は、世界を見渡しているスケール、国際安全保障の鍵を握っている重要度、すべてが刺激的でした。職員に女性が多く、働くママも大勢いたことも印象的でした。そんな貴重なペンタゴン勤務を経て帰国した後、結婚をして出産。私も働くママになりました。そして、子供を寝かしつけながら、そろそろ自分にしかできない仕事を始めよう、自分がいなくなった後の未来の世界に役立つことをしようと思い、防衛相からの退職を決めました。上司や同僚たちはかなり驚いていました。

■腐らない、諦めない。そして準備を怠らない

 私の仕事のモットーは、決して腐らない、投げ出さない、諦めない。「Winners never quit and quitters never win.(勝つものはやめない)」という言葉が好きです。とにかく目の前のことを全力投球で取り組みます。

 私のキャリアを聞くと、順調な人生だと思う人がいるかもしれませんが、実際は壁だらけでした。大学では帰国子女の友人たちの中で自分だけ英語ができなかったですし、通訳の仕事も手探り、男性のような体力もありません。やりたいことはあるけれど、うまくいかないことばかりでした。でも、やり続けることで乗り越えてきました。人は誰もが同じスタートラインから始まるわけではありません。しかし、最初からすごい人はいません。だから、私は男性に体力で劣る分、体調管理には十二分に気をつけますし、与えられた仕事には最善の準備を怠らないように心がけています。

 ペンタゴンに着任して3日ぐらいに突然、「会議に出席してきてほしい」と命じられたことがありました。会場に行くと、机に私の名札も置かれていました。まさか席を用意されていると思っていませんでしたが、その会議について自分なりに準備をしておいたおかげで、その場で専門家たちと渡り合うことができました。

 チャンスが降ってきたときにサッと対応できるようにしておくことで、次の扉が開きます。求められたことは快く引き受けて、少しでも希望を上回るような仕事をする。するとまた次のチャンスが巡ってくることがある。そんな繰り返しなのだと思います。

■英語でミスコミュニケーションを乗り越える

 私が学生時代に英語や国際政治を学びたいと思ったきっかけは、世界平和に貢献したいという素朴な思いでした。世界で絶えない衝突や戦争は多くがミスコミュニケーションから始まっているように思えます。

 世界共通のコミュニケーション言語である英語力を持つことはこれからの国際社会を生きる人たちには欠かせないでしょう。「英語を日本人のもう一つの言葉に。すべての日本人が世界を舞台に活躍できる時代をつくりたい」。これからもこの夢を追い続けていきたいと思います。

■取材後記

 国際舞台で数多くの経験をしている中野さんにとって、忘れられない出来事があるといいます。「ブッシュ米大統領(当時)が来日した際、歓迎式典の通訳を担当していたのですが、スピーチを終えた彼が私のところまで歩いてきて手を差し出して『Thank you for your help!』と言ってくれたのです。感激しました」(中野さん)。シンプルな言葉でダイレクトに感謝の思いを伝えることができる人は素敵です。国際社会が人と人とのコミュニケーションで出来上がっていることを感じるエピソードです。

中野敬子
 ダイアモンドランゲージスクール校長。1998年防衛庁(現防衛省)に入庁。国際会議の通訳、国際広報、国際情勢分析などに従事した後、2011年から米国防総省で勤務。13年に防衛省を退職。14年ダイアモンドランゲージスクールを開校。一児の母。神奈川県生まれ。

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