乳がん 増える「切除し再建」 若い人ほど選択実力病院調査

乳がんは女性のがんで最も患者数が多く、国内では現在、推定で年間約9万人が新たに乳がんと診断される。患者数は増え続けているが、手術や薬の選択肢が増え、患者の生存率も徐々に上がってきた。日本経済新聞社が実施した実力病院調査では、患者のがんのタイプや生活環境に合った治療を提供し、治療と生活の両立を目指す取り組みが浮かび上がった。

MRIとPETの検査を同時にできる装置を導入(鹿児島市の相良病院)

今回の調査では、がん研有明病院(東京・江東)の「手術あり」の患者数が1092例と全国で最も多かった。乳がんの手術は、乳房の切除をがん周辺にとどめて乳房を残す乳房温存術(部分切除)、乳房を全て切除する乳房切除術の大きく2通りに分かれる。

同病院では10年ほど前まで温存術が手術の7割弱を占めていた。現在は4割に減り、代わりに切除術が6割まで増えた。切除術を選ぶ人の半数は切除後に乳房を新たにつくる再建術も受ける。大野真司・乳腺センター長は「再建術に公的保険が適用されるようになったことが大きい」と話す。

切除して再建した方がきれいな形の乳房になるという考えもあり、若い人ほど再建術を選ぶ傾向にある。

同病院で13年7月~16年6月に実施した約3千例のうち、切除術と再建術の両方を受けた割合は40歳未満が64%、40歳代が57%だったが、50歳代では48%と半数を割り、60歳代で26%、70歳代は9%。最近は「孫と風呂に入りたい」「温泉に行きたい」などの理由から、高齢でも再建術を選ぶ人が増えつつあるという。

「切除部位減った」

乳がんの手術時には、わきの下のリンパ節への転移の有無も調べる。がんが最初に転移する「センチネルリンパ節」を色素の注射などで特定し、数個を取り出して検査する。

従来は1個でも転移があればリンパ節を切除したが、手のむくみやしびれ、炎症などの原因になることがある。同病院は現在、1個しか見つからない場合は切除しない。切除の有無で再発リスクが変わらないことが研究で分かったからだ。

乳がんの治療は選択肢が多い。同病院では内科医と外科医による検討会のほか、判断が難しい症例は放射線科医や病理医も加わる検討会で議論。大野氏は「抗がん剤などの進歩で切除する部位は減った。今後は乳房にメスを入れない場合も出てくるだろう」と話す。

今回の調査で「手術あり」が648例と全国5位、九州・沖縄エリアで最多となったのは相良病院(鹿児島市)だ。女性のための専門病院として検査、診断から手術後の薬物治療や緩和ケアまで一貫した体制を整えている。

手術前検査1回で

県内には交通の便の悪い離島や過疎地が多い。少ない検査で詳細な結果を得ようと医療機器を活用している。世界大手のメーカー、独シーメンスと提携し、磁気共鳴画像装置(MRI)と陽電子放射断層撮影装置(PET)が一体となって同時に検査できる「MR―PET」を導入。相良吉昭理事長は「手術前の検査は1回で済む」と説明する。

同病院では高齢な患者が多いこともあり、温存術が7割を占める。切除術は3割で、そのうち3分の1が再建術も選ぶという。

手術後には薬物療法などを受けながら、定期検査で経過を観察する。奄美大島や徳之島などの離島や辺地の病院に定期的に医師が出向き、患者があまり遠出せずに通院できるようにしている。

新薬の開発や副作用の対応が進み、乳がん患者の予後は改善しつつある。ただ、子育てや就労など様々な事情で不安を覚える人は多い。相良理事長は「一人ひとりの患者の人生に寄り添い、治療としっかり向き合える環境づくりが重要」と強調。就労支援などに取り組むNPOとの連携を進めている。

同病院は「手術なし」が619例と全国で2番目に多かった。相良理事長によると「副作用を確かめる必要がある初回の抗がん剤治療などで入院するケースがある」。調査では退院患者数を診療実績の集計対象としているため、件数が多くなったとみられる。

「高濃度乳房」の病変、検査併用で発見率上昇

乳がんの検診で基本となるのはマンモグラフィー(乳房エックス線撮影検査)だ。乳房を板状のプレートで挟み、引き伸ばして撮影する。早期の乳がんなど、触診や視診で発見しにくい小さな病変も見つけられる。乳がんは早期の発見と治療によって治癒率が高まるが、日本は乳がん検診の受診率が40%程度にとどまり、欧米や韓国を下回る。

毎年10月は「ピンクリボン月間」として、世界規模で乳がんの啓発活動が展開されている。がん研有明病院の大野真司・乳腺センター長は「乳がんの正しい知識を身につけようと活動するピンクリボン月間に、『まず受診を』と呼びかけているのは日本くらいだ」と警鐘を鳴らす。

マンモグラフィーでは「高濃度乳房」と呼ばれるタイプの人は病変を見つけにくい場合がある。

乳房は母乳を作る乳腺と脂肪で構成されている。体質によって乳腺の密度が高い乳房はマンモグラフィーの画像で白く見える部分が多くなり、白く写る病変を見極めるのが難しくなってくる。

高濃度乳房の場合、超音波検査(エコー)を併用すると乳がんの発見率が上がることが大規模調査によって分かっている。相良病院では高濃度乳房と判断される人には自己負担にはなるものの、エコーの併用を勧めている。

マンモグラフィーは乳がんの死亡率を下げる効果があることが確認されているが、「エコーが生存率を上げるという結果はまだ出ていない」(大野氏)。今後研究や体制の整備が進むことで、乳がんの検診にも変化が出てきそうだ。

調査の概要 調査は、症例数(診療実績)、医療の質や患者サービス(運営体制)、医療従事者の配置や医療機器などの設備(施設体制)の3つの視点で、病院選びの際に参考となる情報を、日経リサーチに依頼してインターネット上の公開データから抽出して実施した。
診療実績 厚生労働省が2017年2月に公開した15年4月~16年3月の退院患者数を症例数とした。対象は病名や手術方式で医療費を定額とするDPC制度を導入した1667病院のほか、導入準備中などを含め計3191病院。症例数の後の*は0~9例の誤差あり。「-」は0~9例。
運営体制 公益財団法人「日本医療機能評価機構」(東京)が病院の依頼で医療の質や安全管理、患者サービスなどの項目を審査した結果を100点満点で換算。点数の後に*があるのは13年4月以降の評価方法「3rdG」で審査された病院で、各項目をS=4点、A=3点、B=2点、C=1点として合算、100点満点に換算した。
施設体制 医療従事者の配置や医療機器などについて、厚労省が定めた診療報酬施設基準を満たしたとして各病院が届け出た項目を比べた。16年10~12月時点での届出受理医療機関名簿を集計した。
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