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東京・赤坂にあると思えない趣のある雰囲気に一目ぼれし、「赤坂うまや」の出店地を決めた

東京・赤坂にあると思えない趣のある雰囲気に一目ぼれし、「赤坂うまや」の出店地を決めた

九州旅客鉄道(JR九州)の唐池恒二(からいけ・こうじ)会長の「仕事人秘録」。第7回は外食店「うまや」の開業について語ります。

――外食から離れるとすぐに赤字に逆戻りしていた。

田中浩二社長らと経営状況を話していた時のこと。「どこの会社が問題かね」と尋ねられ、「古巣のJR九州フードサービスが悪いです」と心苦しいですが言いました。直後、社長として戻ることに。私が去った年から赤字で、直近は累損3億5千万円と散々。立て直せるのは内情を知る私しかいなかったのです。

「黒字じゃないと社会的に意味がないんだよ。ある意味犯罪だ」。復帰早々、社員に厳しく言いました。赤字の原因は分かっていました。コスト削減を優先し国産鶏肉だった焼き鳥を東南アジアから輸入する冷凍製品に。お客様は正直ですよね。手抜きをして味が落ちたから、足が遠のいたのです。すぐに元に戻しました。原価率が増えて経営が苦しくなると思うでしょう。

目をつけたのは昼に働くパート。4時間の契約ですが、実質は正午のピークの1時間が忙しいだけ。暇な時間で串に刺して下ごしらえさせました。自ら鶏肉をカットするのでコストを抑えられます。結果的に砂肝なら1本40グラムと、冷凍製より2倍大きくても原価は半分に。客足は戻ってきました。安くて冷凍よりおいしい焼き鳥を提供できるわけですから。手間が感動を呼ぶ。まさにしてやったりです。

――社員も予想外の夢をぶちあげる。

秋には黒字を確信しましたが、黒字の夢がなくなると社員がやる気を失います。「次の夢として東京に行こう」。社員に告げましたが冷めた空気。何を破天荒なこと言っているのだという顔でしたよ。でも、決めてましたから。冬には物件探しに動きました。

目ぼしいのがなく、最後に見たのが赤坂。鳥居をくぐって雰囲気のあるたたずまい。不動産屋が「(3代目)市川猿之助さんが若い頃に住んでたんですよ」。なるほど、表札には本名の「喜熨斗(きのし)」の文字。隠れ家的な良い光景が浮かんでくる。早速、猿之助さんにお会いすると「歌舞伎の大道具や小道具を飾りましょう」と喜んでくれまして。

マンションの一室を借りて九州から社員を呼んで準備に着手。東京進出を宣言して1年後に「赤坂うまや」の開業にこぎつけました。当時の雑誌「サライ」では役者が薦める料亭で吉兆を抜き1位に。うれしかったですよ。猿之助さんも「広報部長兼営業部長」だと3日に1回も足を運んでくれまして。14年たった今も超満員。化け物のようなお店をつくりましたよね。

成功しましたが、九州から赴任が決まった社員は不安いっぱいで戦場に赴く気持ち。送別会は今生の別れのようなしんみりとした雰囲気に。その時に歌ったのが人気バンド「シャ乱Q」の「上・京・物・語」でした。

♪~いつの日か 東京で夢かなえ 僕は君のことを迎えにゆく~~

決死隊に示した覚悟。この歌を聴くと当時の若者の姿が目に浮かび、今も涙が込み上げてきます。心の奥から。

[日経産業新聞2016年4月21日付]

仕事人秘録セレクションは金曜更新です。次回は2017年10月20日の予定です。

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