「AIと共存する力」を養う3つの学問とは?第2回 駒澤大学経済学部准教授の井上智洋氏に聞く

AI時代に経済活動を維持するためには、所得を再分配する仕組みが欠かせないと考えています。金融緩和でお金の総量を増やすことも重要ですが、同時にお金を世の中に行き渡らせる施策が必要になることでしょう。ただし、人口の半分の人を生活保護で面倒を見るというのは非現実的です。AIによってどのくらいの労働者が職を失うのか定かではありませんが、生活保護の受給資格をきめ細かく見極められないほど対象者が増えるかもしれません。私は、ベーシックインカム(BI)のような、かなり大胆な所得の再分配の仕組みを導入する必要があると思っています。

――AIは経済活動の中での人の役割を大きく変えそうです。現在、グローバルビジネスを展開するとき、地域ごとの人件費の違いを利用した戦略が多用されています。状況に変化はあるのでしょうか。

AIは、グローバルビジネスのかたちを大きく変えることでしょう。例えば、現在の米国企業は、人件費の安い国で自社製品を生産しています。しかし、AIを使って自動化した工場ならば、市場に近い米国で生産した方がメリットがあるかもしれません。生産活動の自動化が進むにつれて、地産地消型ビジネスが増えてくると思われます。すると、人件費の安さをテコに発展の糸口をつかむ発展途上国の戦略は使えなくなります。発展途上国は、新たな起爆剤を考える必要が出てきます。

AI時代を見据えた仕組み作りを急げ

――先端技術が経済活動のかたちを変え、新たな社会の仕組みの再設計が求められる局面を迎えているのですね。AIによる経済活動の変化は、急激に進むのでしょうか。

AIには、1つの業務しかこなせない特化型AIと、人間のようにさまざまな業務をこなせる汎用型AIがあります。このうち、現在実現しているのは特化型AIです。そして、汎用型AIが実用化すると、労働者の雇用がなくなってしまう可能性が出てきます。汎用AIは2030年には実現のめどが立つとする見方がありますから、現在は過渡期にあると言えます。

ただし、特化型AIでもインパクトは十分大きく、特定業界の雇用環境を大きく変えています。米金融大手のゴールドマン・サックスが金融取引の自動化を進めた結果、2000年には600人いたトレーダーが2人しかいなくなり、代わりに全社員の3分の1がエンジニアになったと言う話はその典型です。今のうちに、AIの活用を前提とした業務の仕組みや人事制度を作っておく必要があるでしょう。

――汎用AIが普及する時代、人間にはどのような仕事が残るのでしょうか。

「クリエイティビティー」「マネージメント」「ホスピタリティー」に価値の源泉がある仕事は残るでしょう。これら3つは、単に脳の機能をまねただけでは再現できない、人間の心だけにある固有の要素に関連しています。人間の心の中には自分でも理解不能な感性や感情、欲望があります。商品の企画や便利な技術の発明には、こうした要素が欠かせません。

AIネイティブが養うべきスキルとは

――AIの活用は、好むと好まざるとにかかわらず必ず到来すると思われます。井上先生は人材を育てる教育者でもあります。AI時代を担う、いわばAIネイティブ世代の子供たちは、どのようなスキルを養ったらよいのでしょうか。

何をやっているのか、明確に定義できない職業が今でもあります。総合商社の社員は、自分たちの仕事を子供に伝えることも難しいし、「総合商社」という言葉自体を英語にすることも難しいと聞きます。私は、こうした職業の方がAI時代にしぶとく生き残ると思っています。定義が明確にできる職業ほどAIに置き換えやすいのです。これまでは、生き延びる力を得るため、手に職を付けることの重要性が説かれてきました。しかし、こうしたスペシャリストを高く評価する発想は、AI時代では逆に危うくなります。むしろ、商品の企画もするし、イベントも行うといった、ゼネラリストの方が有利です。

――スキルを磨くうえで、かなりの発想の転換が求められますね。

これからを担う子供たちは、問題を発見し、それを解決する能力を身につけることが重要だと考えています。私のゼミでは、この点に注力して、学生の自発的な思考を促すよう努めています。小学校で夏休みの自由研究が課題として出されているかと思いますが、これをなぜ中学・高校でやめてしまうのか残念です。自分でテーマを見つけて追求する作業は、継続的に経験していかないと身につかないと思います。

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