論理的に話す人の落とし穴 立て板に水が不快な理由

交渉の代表例といえる商談に苦手意識を持つ人は少なくない PIXTA
交渉の代表例といえる商談に苦手意識を持つ人は少なくない PIXTA

今回は、弱気な人でもうまくいく「問いかけ交渉」を取り上げます。自分は営業や販売職ではないから、交渉ごとは関係ないと思っている人がいるかもしれません。しかし、職場でも家庭でも交渉する場面はたくさんあるものです。私たちは日々、交渉を重ねながら暮らしたり働いたりしているといっても、過言ではありません。

交渉で失敗を犯しやすい人には、大きく分けて3つのパターンがあると思います。「交渉が苦手」だとか、「交渉ごとの矢面に立つのは嫌だ」と考える人はこれらのパターンのいずれかに当てはまっている可能性があります。

第1の類型は摩擦を恐れる「なあなあタイプ」です。自信がなく、自己主張が苦手。リスクをおそれ、相手との衝突を避ける。そういう人です。このタイプは相手が非常識な要求をしてきても、相手のいいなりになってしまいがちです。

第2のパターンは言葉で威圧する「戦闘家タイプ」。交渉は説教や教育ではありません。ましてやけんかではないのですが、相手に対して「分からせてやる」「思い知らせてやる」という姿勢で挑む人がいます。

交渉は、お互いが相手の考え方や主張を取り入れながら、折り合いをつけるプロセスです。だから、「分からせてやる」「思い知らせてやる」などという考えの持ち主は傲慢で鼻持ちならない人として受け入れてもらいにくいのです。しかし、年齢や経験、実績などが災いして、上から目線の説教口調になる人は現実に少なからずいます。

第3は思い通りにいかないと焦る「完璧主義者タイプ」です。交渉では「折り合い」をつけることが求められます。ところが、世の中には自己主張が100%通らないと交渉に負けたかのように考える人がいます。

理想的な展開としては完璧を目指しながらも、現実は主張が8割も通れば「大成功」で、7割でも「成功」ではないでしょうか。求めても得られない完璧を追うことは賢明とはいえません。高望みが過ぎると、相手を恨んだり、心身を害したりと、失うものが多くなりかねません。

論理を押し出すと、かえって話がこじれがち

交渉で失敗しやすい人に多い3つのパターンを挙げましたが、どれにも該当しないが、交渉が苦手という人は、「交渉は感情に支配される」ということを、意識しましょう。人間には感情があり、論理的に攻め立てられると、かえって抵抗感を覚え反発してしまいがちです。

理路整然とした説明が必ずしも交渉を成功させるとは限らない PIXTA

論理的に話す傾向のある人は「ロジックがあれば交渉に勝てる」と考える傾向がある点に気をつけましょう。むしろ、論理をふりかざすと、結果的に交渉がうまくまとまらなくなってしまいます。先に述べた「分からせてやる」のトーンが加わると、ますます話がこじれがちです。

私がおすすめしたいのは、「問いかけ」をしながら交渉を進める話術です。たとえば、「このリポートを明日の午後2時までに仕上げてくれないか?」と、上司から持ちかけられたケース。部下が「それは無理な注文です」「ほかにもやらなくてはいけないことがあるのを、知っていますよね、部長!」「無茶、言わないで下さい」と応じたのでは、いさかいが起きてしまいます。

なぜなら、この応じ方は上司の側に交渉する余地を与えていないからです。部下からこう言われてしまうと、上司としては「俺の言うことが聞けないのか?」「そんなに忙しいのは、能率が悪いからじゃないのか?」と言いたくなってしまい、その先は部下が「じゃあ、この際、言わせていただきますが……」と感情的に切り返して、後は泥沼。急ぎの仕事が宙に浮くだけではなく、その後の人間関係にも悪影響を及ぼしそうです。

では、このケースで部下はどう返事をすればよいのでしょう。たとえば、「明日の午後2時までに、ですか?」と応じてみましょう。これは問いかけですから、上司はなぜ午後2時なのかを説明する立場になります。

「そうだ、このリポートができないと、明後日の会議でうちの部署の予算が削られかねないんだ」と上司が事情を明かせば、部下の側も状況を織り込んだうえで「それは一大事ですね。でも、明日までに仕上げるには、手元の仕事をストップしたり、アポイントをずらしたりしさないと厳しいのですが、そのあたりはいかがでしょうか?」と返すことができます。ここでも質問形式で返すのがポイントです。問いかけと返答を積み重ねていくことによって、自然に交渉が成り立っていくわけです。

上司は業務の優先順位を決める判断を求められた格好です。「そうだな、では優先順位を決めるから動いてくれ、頼む」とでも答えることになるでしょう。急な仕事が割り込んで窮屈になるのを警戒していた部下もこうなれば「分かりました。判断をお願いします」と、条件付きで引き受けることができます。これが望ましい交渉の流れです。

交渉のゴールを最初から決めてかからない

この事例のように「問いかけ」というボールを投げると、尋ねられた側にはどう対応するかを考える余裕が生まれます。この余裕が交渉の潤滑油のような役目を果たします。「やれ」「忙しい」という結論同士のぶつかり合いとは異なる展開が生まれるわけです。

実際には「明日の午後2時までに、ですか?」とオウム返しのように尋ねただけです。それでも、相手は「聞く耳を持っている」と感じるものなのです。この立場の共有が交渉のベースになります。

交渉で重要なのは、答えは相手の中にあるかもしれないと考えて、その答えを引き出そうとする姿勢です。だから、いきなり自分の意見や希望を押しつけるのではなく、相手の事情や本音を聞き出す質問を通して、互いに折り合えるゴールに近づいていく進め方が大切になってきます。

仕事上での取引先や社内関係者との交渉はもちろん、夫婦の間で家事や育児の分担を決める話し合いも交渉といえます。大きな買い物となるマイホームや自動車にしても、何の交渉もしないで相手の言いなりになることなどありえません。

でも、「自分は弱気だから交渉は苦手だ」「口下手だから、交渉ごとは避けたい」という人は少なくありません。そうはいっても、交渉を避けていては損をするばかりです。

交渉に苦手意識を持つ気持ちも分かりますが、「人生は交渉ごとの繰り返し」ととらえ、問いかける交渉を試してみてくださいね。

次回は、会話力を高める「おまけの情報」です。お楽しみに!

「臼井流最高の話し方」は水曜更新です。次回は7月12日の予定です。

臼井由妃
ビジネス作家、エッセイスト、講演家、経営者。熱海市観光宣伝大使としても活動中。著作は60冊を超える。最新刊は「今日からできる最高の話し方」(PHP文庫) 公式サイト http://www.usuiyuki.com/
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