東京の「インド中華」が熱い チャーハン、そばめし…

ある日のこと。友人と入った武蔵小杉のインド料理店で何を頼もうかとメニューボードを眺めていると、見なれない料理があった。「ゴビ・マンチュリアン」、満州風(中華風)カリフラワーという意味だ。

「なにこれ?」と早速オーダーしてみると、衣をつけて揚げたカリフラワーにオレンジ色の甘いあんをからめた料理だった。少しピリッと辛い。酢豚に似ていて、さしずめインド風中華といったところだ。

インド中華の定番料理のひとつ、カリフラワーのスパイス揚げ「ゴビ65」 インド中華としては珍しくターメリックなどインド料理に使うスパイスが使われている 衣はサクッ

インドのカレーにもよく使われる、ボリューム感のある野菜、カリフラワーが甘いあんに意外にもマッチして、ナンではなく白いご飯が食べたくなった。

実はこうしたインド中華、近頃は東京のあちこちのインド料理店で食べられる。しかも、本国インドでもポピュラーな料理らしい。調べていたら、お客のリクエストでインド中華のコース料理まで提供している店があった。

「マンチュリアン」と呼ばれる料理は主な食材にあんが絡まった酢豚に似た料理 上のようにカレーに似た「マンチュリアン・グレービー」と呼ばれるものもある チャーハンやチャパティなどと一緒に食べる

訪ねたのは西大島にある「南インド料理 マハラニ」。オーナーシェフはセック・サーデック・カジさんだ。2001年に来日、現在江東区で北インドや南インド料理などと内容を変えながら、3軒の店を経営する。カジさんの出身地は北インドのコルカタ。長らく英領インドの首都であった街で、カジさんによれば、かつて漢民族の一派といわれる客家の人々が多く住んでいて、今なお中華街がある。

「コルカタに住んでいた時は知りませんでしたが、料理の修業を始めた南インドの先輩料理人に、インド中華はコルカタが発祥の地だと聞きました。今では、インド全土で見られる料理ですが、特に、IT関係の企業が多い南部のバンガロールなどで人気があります」とカジさんは説明する。

「マハラニ」の「ベジタブル・マンチュリアン・グレービー」の揚げ団子 ふんわり軟らかく、割ってみると中からネギ、ニンジンなどがのぞいた 「たっぷりとニンニクを使うところがマンチュリアンのポイント」(カジさん)

そして彼は「私はホテルのレストランで修業をしたのですが、インドのホテルには厨房が4つあって、カレー、タンドーリ(窯で焼いた肉などの料理)、パン類、それにインド中華の厨房があるんです」と続けた。なんと、インド中華は専用の厨房があるほどインドでポピュラーだというのだ。

訪れた店のメニューの中心は南インド料理だったが、これに負けないぐらい多くのインド中華の料理が並んでいた。「この辺りは、IT関係の仕事をしているインド人が多く住んでいるんです。週末ともなれば、お店のお客様の大半はインドの人。だから、インド中華のメニューを多くしているんですよ」

シェズワンスタイルの魚料理「シェズワン・フィッシュ」 シェズワンはかなり辛みが効いている こうした料理もインドでは、チャーハンやチャパティなどと一緒に食べる

インド中華には、基本的にガラムマサラやターメリックといったインド料理に使うスパイスは使わない。例えば、マンチュリアンは主にトマトケチャップとニンニク、やはりポピュラーな料理法のひとつシェズワン(四川風)は主に赤唐辛子とニンニクで味付けしたものだという。

いずれもしょうゆを少々使うそうだが、実はこのしょうゆ、中国のものでも日本のものでもなく、インドのしょうゆを使うという。「日本のしょうゆはインド中華には使えません。そもそも私はあまり好きになれないんです。魚くさいというか…」と口をにごすカジさんに、インドしょうゆを少しもらってなめてみた。まろやかな香りがして、ソースのようなコクがある。

インド中華の厨房には欠かせない調味料、インドのしょうゆ