勝浦タンタンメン 行列してでも食べたい真っ赤な激辛
「思っていた以上の激辛。でもまた食べに来たくなるって気持ち、分かる気がする」
額に汗を光らせながら店を出る若い女性の言葉だ。
いかにも辛そうな、ラー油で真っ赤に染まったスープ。それが千葉県勝浦市のご当地グルメ、勝浦タンタンメンの特徴だ。
辛い料理の本場、中国四川省で生まれた担々麺は、もともとは汁がなく麺に具をのせて食べる料理だった。その後日本に伝わった担々麺はスープ入りになり、日本人の好みに合わせて、芝麻醤を加えてゴマの風味を効かせたマイルドな辛さになっていく。
しかし、勝浦のタンタンメンにはゴマも芝麻醤もない。麺の上にはたっぷりのラー油とみじん切りのタマネギ、ひき肉がのっている。不用意に麺をすすろうものなら、すぐにむせてしまう。それほど「激辛」だ。
なぜそんなにまで辛いタンタンメンになったのか…。勝浦タンタンメンの元祖店にして、週末は大行列で知られる人気店「江ざわ」で話を聞いた。
勝浦タンタンメンの誕生は1954年。当時は港の近くにあったお店で「江ざわ」初代店主が、本場中国で食べた辛いタンタンメンに触発され、芝麻醤を使わない勝浦独自のタンタンメンを考案した。
勝浦は、カツオ漁などで知られる漁業のまち。この辛さが、海女や漁師に人気を呼んだ。海の仕事を終えた後食べると、冷え切った体がポカポカに暖まるのだ。
その後「江ざわ」は勝浦のまちから姿を消すが、人気メニューは各店へと広がり、受け継がれていく。そして年を重ねるうち、勝浦タンタンメンは「勝浦のご当地グルメ」、つまりは勝浦を代表する味として広く知られるようになる。
2011年には、勝浦タンタンメンを旗印にまちおこしに取り組む「熱血!!勝浦タンタンメン船団」がB-1グランプリに初出展。知名度は一気に高まった。
隣まち、鴨川市で復活していた「江ざわ」も、3代目への代替わりを機に、創業の地・勝浦市内に店を戻した。
そして2015年「熱血!!勝浦タンタンメン船団」が、青森県十和田市で開かれた第10回B-1グランプリで、第1位にあたるゴールドグランプリを受賞。人気は不動のものとなった。
以来、週末の勝浦市内は、タンタンメンを求める多くの観光客でにぎわうようになる。
多くの勝浦タンタンメン提供店の中でも「江ざわ」は特に人気店として知られる。中心市街地から遠く離れた、決して便のいいところではないが、それでも大勢の観光客が訪れ、昼食時には1時間以上も待たないとタンタンメンにありつけない。ゴールデンウイークなどの繁忙期には2、3時間待ちを覚悟しなければならないほどの「大行列店」だ。
獣系に魚介類も加えて出しをとった醤油ベースのスープに、ごま油とトウガラシで作る自家製ラー油と旨み具材がたっぷりのっている。
せっかくなので大辛をいただく。ただでさえ辛いラー油の量が増し、スープの「赤さ」がさらに際立つ。
辛さに慣れているつもりでも、歯で麺をたぐるように食べないとすぐむせてしまう。スープを飲めば、とたんに汗が噴き出してくる。しかし、この辛さこそが勝浦タンタンメンの神髄だ。
もちろん人気店は「江ざわ」だけではない。各店それぞれ、個性を生かした勝浦タンタンメンを提供する。
たとえばよりストレートに辛さを味わいたいなら「はらだ」。丼は一面のラー油。一見、赤色しか目に入ってこない。味も見た目通りだ。
一方「ダイニングバー・ラグタイム」は、ジャズがBGMのおしゃれなカフェ風のお店。ビーチサイドで、テラス席に座れば太平洋を眺めながら勝浦タンタンメンを堪能できる。
勝浦は朝市も有名。元旦と水曜日を除き、平日でも朝市が開催されている。手製の干物や地物の野菜などがずらり路地に並ぶ。
朝市が開催される商店街でも勝浦タンタンメンが食べられる。下本町朝市通りにある「いしい」は味のバリエーションが豊富。通常のタンタンメンの他に塩味、味噌味、カレー味のタンタンメンがある。
表面のラー油を箸で払いのけると、その下から澄んだ塩味のスープ、味噌スープが顔をのぞかせる。カレーは、しょうゆベースの基本のタンタンメンにカレールーがのっている。
ラー油の辛さに塩、味噌、カレーの風味が打ち消されるのではないかという事前の予想は見事に裏切られた。ラー油の辛さをしっかりと味わいながらも、それぞれの風味の違いをしっかりと楽しめる。さらに辛くしたいなら、テーブルには後がけ用のラー油も用意されていて、自分好みに辛さを調節して食べられる。
現在、勝浦ではNIKKEIプラス1の何でもランキング「もうすぐ満開 ご当地ひなまつり10選」で2位に選ばれた「かつうらビッグひな祭り」が3月5日まで開催中だ。
遠見岬(とみさき)神社の石段に1800体のひな人形が並ぶ様子は、ポスターなどで有名。勝浦市芸術文化交流センター「キュステ」に行けば、ホールに約8000体のひな人形が一堂に並んでいる。圧巻だ。
4日(土)には「江ざわ」に近い松野地区の長勝寺で、約5000の竹灯籠のほのかな明かりとともにひな人形を鑑賞する「里あかり」も実施される。この機会に、勝浦タンタンメンを食べに、勝浦を訪れてみるのもいいだろう。
(渡辺智哉)
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