冬アイスのソフトな食感 カギ握るソルガムきびとは?

ローソンは昨年12月、ウチカフェシリーズとして「ダックワーズサンドアイス バニラ」を発売した。冬に暖かい部屋で食べるアイスが人気だそうで、素材にこだわったアイスとして開発した。製造元は「ガリガリ君」でおなじみの赤城乳業だ。

バニラアイスをはさむダックワースは、アーモンド風味のメレンゲを使った焼き菓子のこと。軟らかい食感が特徴。この食感のカギを握っているのが、ホワイトソルガムきびという穀物だ。
年末年始にその年のトレンドを予測するのはいずこの国も同じだが、米国では今回、米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)、米紙ワシントン・ポスト(電子版)、米NBCの情報ニュース番組「トゥデイ」の公式ウェブサイトなど、主要メデイアがこぞって挙げたのが、実はソルガムだった。

ソルガムとは、南アフリカ原産、紀元前8000年ほど前から栽培されていた古来穀物で、日本では「たかきび」という。桃太郎のきびだんごのきびである。中国では「コーリャン」と呼ぶ。チャン・イーモウ監督の映画「赤いコーリャン」を思い出す向きも多いだろう。
ただ、ソルガムは世界各地のそれぞれの環境に適した品種があり、その数は数千にも上る。色も成分も性状も実に様々。この中で米国で注目されているのは、食用として品種改良を重ねた「ホワイトソルガムきび」という品種だ。

なぜ今、ソルガムに注目が集まるのか。
まず、現代人が不足がちな食物繊維やミネラルが豊富に含まれているということ。それを全粒で食べるので、栄養価を丸ごと取ることができる。ヘルシー志向が高まる米国では、米農務省(USDA)も「米国人のための食ガイドライン2015-2020第8版」で「食べる穀物のうち、少なくとも半分は全粒を」と打ち出している。

最大の特徴はグルテンフリー(グルテンが含まれていない)ということ。グルテンは小麦などに含まれる成分で、この成分のおかげでパンやケーキなどをふっくら焼き上げることができる。
一方、グルテンは小麦アレルギーの原因物質でもある。小麦が食べられない小麦アレルギーの人がパンを味わう方法としては、グルテンフリーのコメを使ったコメ粉パンなどを代用するしかなかった。

ただ、パン本来のふっくら感はイマイチで、アレルギーの子どもにおいしいパンを食べさせたいお母さんたちの悩みの種でもあった。そんな悩みを解決するのがホワイトソルガムきびというわけだ。
そんなグルテンフリー穀物が流行し始めたのは5年ほど前。米国の人気女優グウィネス・パルトローさんはクリーンな生活を提案しようと、自身のライフスタイルブランドを立ち上げ、盛んにグルテンフリーについて取り上げてきた。男子プロテニスのジョコビッチ選手も、グルテンフリーの食事法を実践していると報じられている。

また、日本に初めてグルテンフリーを紹介したというオーストラリア出身、栄養コンサルタントのエリカ・アンギャルさんは「日本人はグルテンフリーというと、コメ粉だけに目が向きがち。でも、ほかのグルテンフリー穀物も一緒に使うとよい。その方が、小麦に近いおいしいパンやお菓子を作ることができる」と、講演会で訴えた。
こうして、コメをはじめとした大豆、トウモロコシ、ソバなどグルテンフリー穀物に注目が集まる中、今回初めてソルガムという具体名がお目見えしたのだ。
ホワイトソルガムきびは、栄養面に優れているだけでなく、メインディッシュからデザートまで用途が幅広い。粒状と粉状があって、それぞれ調理もしやすい。

粒状はゆでて主食として食べるほか、浸水して膨らませることでひき肉のような食感を楽しめることから、ハンバーグやコロッケ、麻婆豆腐に応用できる。粉状をクッキーやパンケーキ、ワッフルなどに使えば、小麦よりもさっくりとした軽い食感が味わえる。また揚げ物に使うと給油率が低いのでかりっと揚がり、カロリーも抑えることができるという。

飲食店では、ビーガン(完全菜食主義)向けのレストランの草分けとして知られる「レストラン エイタブリッシュ」(東京・表参道)がホワイトソルガムきびを導入している。もともと小麦のマフィンとグルテンフリーのマフィン(ヒヨコ豆、玄米、ホワイトソルガムきび使用)の2種類を販売していたところ、グルテンフリーのマフィンばかり売れるので、とうとう従来品のコムギのマフィンをメニューから取り下げたという。
今年、日本でもこだわりの食通たちが、ホワイトソルガムきびに目を向け始めそうだ。
(中野栄子)
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