大騒ぎの酔っ払いが、電車に乗ると無言になる理由

いま、恋人たちはひとつのスマホに互いの言葉を書き入れ合ったりしている。

ある夜、列車のドアに寄りかかり、スマホの画面をにらみつけるように険しい表情をしたまま指を動かす女性の、その画面をそっとのぞいたことがある。

「何か深刻な事態をつづっているようだが、大丈夫だろうか?」

チラッと見えたものは(のぞき込んだのだが……)、意外にも「ハートマーク満載の楽しそうでポジティブな文面」だった。文字情報では、メールの文面と送り手の感情や表情は連動しないとの意外な事実を発見した瞬間だ!(大げさか……) どんな嫌な顔をしていても、甘くやさしい言葉はいくらでも書ける。

一方で、電話の生声にはそのまま正直な表情が付いてくる。「ばか野郎、この野郎」と声で怒りながら「にっこにっこの満面の笑顔」を見せられるのは、竹中直人さんが天才だからできる技だ。

私は「身勝手なウザイやつ」?

声から自然に伝わる人間味を、文字で表すとなるとこれはなかなか難しい。どうしても「無味乾燥で陳腐、ワンパターンな表現の羅列」に終わりがちだ。音声で伝えられる情報量に比べれば、文字情報はまだまだ見劣りがする(絵文字とスタンプ、もっと頑張れ!)。

「文字会話より、断然音声会話」という守旧派の私は、そんなわけで、ヒマさえあればいろんな人に電話をかけてしまう。声による「より濃密なコミュニケーション」を求めてしまう。よく言えば「さみしがり屋」、悪く言えば「身勝手なウザイやつ」なのだ。

先日事務所の社長がぽつりと言った。

社長:「僕は最近、若い連中にいきなり電話しなくなりましたよ。『社長からの突然の電話って緊張するから、あらかじめ言っておいてほしい』ですって。だから電話する前に『これから電話するけどいつ頃がよい?』ってメールするんですよ」

梶原:「面倒くさい時代だなあ」

などと思いつつ「でも、そういう配慮も必要な時代なのかなあ」とあきらめかけてもいる。以来、私の電話での通話時間は若干減った感じだ。とはいえ「話し放題プラン」は、やっぱり無くさないでほしいものだ。

[2016年12月8日公開のBizCOLLEGEの記事を再構成]

梶原しげるの「しゃべりテク」」は木曜更新です。次回は12月22日の予定です。
梶原 しげる(かじわら・しげる)
1950年生まれ。早稲田大学卒業後、文化放送のアナウンサーになる。92年からフリーになり、司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)。「日本語検定」審議委員を担当。
著書に『すべらない敬語』『そんな言い方ないだろう』『会話のきっかけ』 『ひっかかる日本語』(新潮新書)『敬語力の基本』『最初の30秒で相手の心をつかむ雑談術』(日本実業出版社)『毒舌の会話術』 (幻冬舎新書) 『プロのしゃべりのテクニック(DVDつき)』 (日経BPムック) 『あぁ、残念な話し方』(青春新書インテリジェンス) 『新米上司の言葉かけ』(技術評論社)ほか多数。最新刊に『まずは「ドジな話」をしなさい』(サンマーク出版)がある。

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