自販機・飲む… ひと味違う「だし」の楽しみ
料理の味付けの決め手の一つである「だし」。和食の世界的な人気が続く中で、この日本の味覚は海外からも注目されている。最近はただ味わうだけではなく、見た目にもインパクトのある商品が開発され販売を広げたり、「飲む」楽しみを訴えた商品も出てきた。これまでとはひと味違うだしの楽しみ方を探ってみた。
500ミリリットルのペットボトルの中に焼き魚がまるまる1匹――。ボトルの中に九州産の焼いたアゴ(トビウオ)とコンブが入っている「だし道楽」は一見風変わりなだし商品だ。口に一口含むとだしの香りと味わいが一気に広がる。ウーロン茶のような色なので間違えて飲むのではないかという気もするが、製造、販売する二反田醤油(広島県江田島市)の二反田圭児専務は「価格競争にならない、そして手に取った人を驚かせる商品を作りたかった」と話す。
同社はしょうゆ販売を主力としてきたが、販売が伸び悩む中で10年あまり前にだし販売にも事業を拡大し企画、開発に至った。当初は地元のうどん店などで扱っていたが「見た目が面白いからか、土産や贈答で買っていく人が多い」など口コミで人気が広がった。だしはうどんのつゆや鍋物、だし巻き卵などに向いていて1本700円で、取り出した焼きアゴはごはんのふりかけにも再利用できる。現在は同社の売上高全体の6割程度を占めるまでになったという。
「だし道楽」は売り方もユニークだ。スーパーやコンビニなどではなく自動販売機が主たる販路だ。大手駐車場会社と連携し、関西や中国、九州など西日本を中心に31台を展開する。首都圏でも初となる自販機を10月に川崎市内に2カ所設け、12月に横浜市内への設置も決まった。多いときには1台で1日に100本程度売れることもあるという。「国内市場を網羅するとなれば100台近い展開になるかもしれない。もちろん海外市場も考えたい」と意欲を示す。
「だしはこういう味をしているのだと、食材と一緒ではなく飲むことで知ってほしい」と話すのは、飲むタイプのだし「雅結寿」を扱うボニートジャパン(東京都世田谷区)の阿部恵里子社長。鹿児島の水産会社と連携して、かつお節など魚介類や野菜のだし10種類を販売している。そのまま飲むことで、だし本来の味を楽しむことができると訴える。
飲むための準備段階からスマートなスタイルを考えた。ペーパーフィルターを使ってだしの粉末にお湯を注ぎこむ姿は、まるでコーヒーをいれているかのようだ。抽出されただしを受け止めるのはマグカップや紅茶のカップ。「日常的な飲み物として、お茶を飲むような感覚でだしを味わってほしい」と女性客らに訴える。
だしは様々な料理に使われ、万能の味付けを担ってくれる。2015年のイタリア・ミラノ国際博覧会(万博)の「日本館」では、だしに舌鼓を打つ外国人の姿も多かった。だしの新たな楽しみ方の提案は、日本の食文化の魅力を一段と高めることにつながる可能性を秘めている。(映像報道部 近藤康介)
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