ジャパネットに転職した局アナ、プライド捨て挑む話術

馬場:「仲間たちは口々に言ったんです。高田社長の完コピをしたらいい! って」

梶原:「完コピ?」

馬場:「高田社長がテレビで実際に商品紹介するVTRの、しゃべりの部分を一言一句そのまま文字に書き起こすんです。停止、戻し、再生。何百回もボタンを押しながら、何時間もかけてそのままノートに写す。その後、VTRの音声を消して高田社長の口の動きに合わせ書き取った言葉を乗せていく。これをひたすら暗記するまで延々と……」

梶原:「完璧にコピーだ……」

馬場:「丸暗記することに意味があるんじゃないですよ。完コピする中で、物を売るプレゼンテーションに必須のトーク技がいくつも見えてきたんです」

梶原:「例えば?」

馬場:「『皆さん、どうです?』『わかりますか皆さん?』『便利だと思いません?』『これ気がつきました?』『安いでしょう?』『便利ですね?』『喜んでもらえそうですね?』。こういうちょっとした視聴者への呼びかけを、繰り返し挟み込む。テレビの向こう側と会話を交わすテクニックが身についてくる」

梶原:「そんなに、いっぱい話しかけたら、うるさくない?」

馬場:「それが、ごく自然なんですよ。間がいいんだと思います。うるさいと思われない、間、それを完コピから学べるんです」

梶原:「言葉というより間の感覚。脇で見ただけじゃ身につけられない……」

馬場:「完コピしないと会得できません。間と言えば、値段をいう前の間、テレビの高田社長は驚くぐらい長めに空けていたんです。私は怖いと思うぐらい。でもそれが見ているお客さんにはちょうどよい、むしろその間の長さに引き込まれるんだと、お客さんの立場で聞き直して理解できました」

梶原:「お値段発表前の、間、確かに長いかもねえ」

馬場:「単なる自分の『ノリ』で話しているわけじゃないんです。社長がよく口にする世阿弥の言葉『離見の見<観客の見ている目で俯瞰(ふかん)して自分を見る>』の意味も、完コピで納得しました」

高田前社長のなんでもないしぐさは「計算されている」

梶原:「完コピは丸暗記だなんて、バカにできないね」

馬場:「自分らしく、自由に、個性的にといいますが、個性を出す以前に基本をたたき込む。アナウンサーに限らず仕事を覚えるには必要じゃないですか。学ぶはまねる、なんて言いますでしょう? 僕だって先輩アナウンサーについて回ったり、うまい話し手のしゃべりを聞きに行ったりしましたけど、完コピまではしなかった。完コピしないと学べない技って、確かにあるんだと思いました」

梶原:「技を盗むって、そういうことかあ……」

馬場:「しゃべりだけじゃないんです。音のない社長の映像を見ていると、なんでもないしぐさが実に計算されていることもわかりました。紹介する商品を視聴者に最初に見せるとき、社長はそれを、いとおしそうに、宝物のようにして触る。完コピで何百回も見るからその非言語メッセージのすごさも発見できる」

今こそ始める学び特集
ブックコーナー ビジネス書などの書評はこちら
注目記事
次のページ
ご一緒に三脚とプリンターもいかが? ……思わず欲しく
今こそ始める学び特集
ブックコーナー ビジネス書などの書評はこちら