グルメクラブ powered by 大人のレストランガイド

食べ物 新日本奇行 classic

肉も麺も卵もボリューム満点 下町の名物そば「冷肉」 冷たいうどん・そば(番外編)

2017/1/14

前回いただいたメールの中に台東区竜泉にある「角萬(かどまん)」の人気メニュー「冷肉(ひやにく)」に関するものがあった。大変に食欲をそそられる内容であった。

私は、地下鉄を乗り継ぎ日比谷線三ノ輪駅に降り立った。国際通りを7、8分歩いたところに「角萬」はある。暖簾をくぐって中に入ると8割の入りである。カウンターは3人掛けと小さい。厨房の正面に細長いテーブルがふたつあって客は向かい合って座るようになっているが、一人客は知らない人と面と向かって食べるのが嫌なのか、みんな同じ方向に1列に座っている。教室みたい。

私は隅っこの小さなテーブルに席を取った。実はその日の昼飯がそばで、しかも食べたのが午後3時だった私は全然腹が減っていない。酒でも飲んで腹が空くのを待つことにし、お銚子を頼んだ。杯を重ねている間、客はずるずる食べ、食べ終わると帰り、それと入れ替わりにどんどん新たな客が入ってくる。相当な人気店である。

竜泉にある「角萬」

「大盛り(念のためですが、これはもりそばの大という意味です)」

「肉なん」

などといった普通のメニューを注文する人もいるにはいるが、圧倒的に聞こえてくるのは、

「冷肉!」

「冷大!(ひやだい)」

という気合いの入った声であった。

壁のメニューを見ると「冷肉」はその中に入っていない。温かい「肉なんばん」はあるから「冷肉」は「冷やし肉なんばん」の略で、一種の裏メニューのようである。裏メニューといってもこれだけ注文が多いと立派な表メニューであり、むしろ表に出ているやつの方がマイナーな印象。

冷肉

閉店が早いのでゆっくり飲んでいる場合ではない。頃合いを見計らって「冷肉」を注文した。

運ばれてきた丼を前にして私は無言の叫びをあげた。でかい。とてもでかい。普通の店の大盛り以上。見た目2杯分である。

そばではあるが、きしめんクラスの平打ちで、そば粉が入ったうどんという趣である。しかも麺は切りそろえた感じではなく1本1本が不ぞろい。長いの短いのが絡み合って、どっしりと丼に収まっている。その上に切り落としなどではない厚みのある豚肉が折り重なり、煮たネギが青々とうねっている。

きしめんクラスの平打ち

大きく口を開けてそばをほお張る。もちっと歯に抵抗する。十割そばの歯応えとは少し違う。形状と同じく、味わいもまた限りなくうどんに近い。

つゆはカツオがぎゅいーんと効いている。それに豚肉を煮た煮汁が加わってただ甘辛いというのではない、魚と肉のエキスの競演とも言うべき味わいが生まれている。つゆを箸でかき回すと、底に沈んでいる肉から出た小さな脂の粒が雪のように舞う。K泉教授なら「頭の中が真っ白になる」であろう。

簡単に言うと、うまい。私は通常うまいまずいは書かない。でもこれはうまいと思った。といっても私なりに食べたつもりではあったが、食べても食べてもなくならない。

という具合に食べながら、いや飲みながら店内の模様を伺っていると、驚くべき事態が次々に展開されていた。

超重量級冷肉でも物足りないらしく、ご飯と漬物をもらっている若者がいた。

玉落とし

「冷肉玉(ぎょく)落とし!」

高らかに注文したカップルのテーブルを、トイレに行く振りをしてのぞいてみると、冷肉の中央に金色に輝く卵の黄身が落とされていた。

「冷肉、持ち帰りで」

こんな注文が通ったところをみると、大方のメニューがテークアウト可能のようである。

すぐ近くにはゲソ天で人気の立ち食いそば屋もある

一番驚いたのは、私たちの隣りのテーブルに座っていたお父さんが、

「冷肉お代わり!!」

と叫んだときであった。お父さんの叫びに私の眼鏡はずり落ちた。

グルメクラブ 新着記事

ALL CHANNEL