働き方・学び方

職場がヤバい! 不正に走る普通の人たち

守りの経営はあっても「守りの不正」はない 流創株式会社代表取締役 前田康二郎(4)

2017/3/26

PIXTA

 「2、3万くらいちょろまかしたっていいだろう、3億円の利益がどうにかなるのかよ」と吐き捨てる社員がいたら、若い頃の私であれば正義感に燃えていて「それでも不正はとにかくダメです」と言っていたと思います。

外に隠す限り「逃げ」である

 今は、「まあ確かに何億円も利益があったらそう思いますよね」と思う部分もあります。けれど年を重ねた分、「もっと深く考えると、結局不正というのは『逃げの姿勢』になるので、会社経営という観点からはやはりすべきではないと思うのですが、どう思いますか」と聞き返すと思います。

 会社の経営方針では、一般的に通常時には「攻めの経営」が求められ、時によっては「守りの経営」も求められます。しかし、「逃げの経営」という言葉は聞いたことがありません。不正についてはどうでしょうか。「攻めの不正」という言葉はないでしょう。あるとしたら「守りの不正」か「逃げの不正」です。そして、多くの不正をする人が、自分の不正は会社を守るため、従業員を守るため、取引先を守るためと、「守りの不正」だと主張します。

 ならば、胸を張って堂々と「これから不正をします」と宣言すればいいではないですか、という話なのです。確かに社内では堂々と不正をしているのかもしれませんが、社外に出たらこそこそと不正を隠しているのではないでしょうか。決算発表の場で「会社を守るために不正処理をしまして、売上高には翌年度の売上も取り込んで850億円、営業利益が......」と、経営者が会見するというのでしょうか。そこまでやるなら、本気で「守りの不正」をしたかったのだなと思います。

 公の場で言えないことをした。それは、どんなに自分たちが「守り」だと言い張っても「逃げの不正」です。「隠す」という時点で、アウトなのです。

悪貨が良貨を駆逐する

 会社の不正というのは、金額の問題だけではありません。不正をする社員の数の問題でもあります。

 1人がやれば2人、2人がやれば5人と、放置すればするほど必ず連座して増えていきます。不正をする人数が増えると、それに伴い、不正をする人間を「守る」人間も増えていきます。その結果、不正を認知しながら隠蔽している社員数のほうが多くなるので、もはや社内の人だけでは、組織を元に戻すのはほぼ不可能です。そこに残された正義感のある人はその他の社員につぶされ、追い出されてしまいます。「悪貨が良貨を駆逐する」というのは、まさにこのことです。

 そのような「逃げの不正」をした人たち、そしてそれを「守る」人たちが集まった会社で、「攻めの経営」などできるでしょうか。当然ながらそこまでの実力は失われてしまっているので組織も弱体化し、「守りの経営」からいつしか「逃げの経営」になり、会社全体が危機に陥るのです。

 ですから、たとえ小さな不正の芽でも、「やってはいけない」ということを強く言い続けて指導、啓蒙し、摘み取っていかないと、いずれ赤字、倒産、吸収合併されるなどして、代々大切に育ててきた会社が枯れていくのです。

数字だけでなくキャリアも汚す

 会社員がなぜ不正をしてはいけないのか、そして巻き込まれてはいけないのか。その大きな理由のひとつとして「キャリアに影響する」という問題を避けては通れません。

 中途採用の求人募集に数多くの履歴書が送られてきます。そのなかに不正事件を起こした会社出身の人がいたとします。中小企業の社長であれば、「うちの規模の会社にこんな大手出身の人が応募してくれるのはありがたい」と採用を考えるかもしれません。

 ただ、そういう思いの前にストッパーがかかります。それはたとえ当人が不正の当事者でないことがハッキリしていても、「この人は、社内で何か不正や間違いがあった時に、きちんと声をあげてくれるのだろうか」ということです。不正が怖いのは、周囲が知っているのに黙っているということです。なぜ黙っているかというと「言って得することがない」からです。

 「自分が通報したことがばれたら不正をしている人たちから嫌がらせをされるのではないか」
 「自分たちも同じように社長から疑われるのではないか」
 「単に面倒なことになりそうだから関わらないでおこう」

 そのように思うと、普通はなかなか躊躇してしまうものです。

 しかし、自分に得することはないけれど、会社の将来や皆のためにも言ったほうがいいと考える気概のある人が社員に多数いないと、不正を起こさない職場は作れないのです。

 また、不正の習慣のなかで仕事をしてきた人が、「正しく処理をする」という厳しい環境についてこられるのだろうか、という点も気になります。普通は合法的な方法でつらい道を乗り越えるところを、避けて不正をしてきた会社なわけですから、社風もそのようになっているはずです。普通の転職でさえ、スキルは合致していても社風が合わなくて辞めていくという社員も大勢いるなかで、普通の会社の社風についてこられるのか、という心配もあるのです。

不正に気付いたら一刻も早く逃げ出す

 不正をしていた会社から通常の会社に転職した場合、その人自身にも戸惑いは多いはずですし、業務以外のストレスも当然溜まります。そのようなことも採用する側は考えていますから、他の一般企業の応募者よりは、採用の可否を熟慮して判断することが多いと思うのです。

 ですから、不正をする会社が「君たち従業員のことを守るにはこうするしかなかった」などと言うのを鵜呑みにしてはいけません。そう言いながら、結局は従業員の将来のキャリアを台無しにしているのです。

 そのような理由を会社が言いだした時点で、早めに次の仕事を探すべきです。もし早めに転職できたら、半年後、1年後に、前職の会社の不正が世間に発覚した際に「だから転職した」とわかれば、逆に信頼できる人間だと、採用した会社は思います。これが、不正が発覚した後に応募されたら、責任感のある人ほど「自分でこの人をきちんと育て直すことができるだろうか」ということを考えるのです。

 自分のキャリアを何よりも大切に考えなければいけません。そう考えれば、自分が不正をしていなくても、周囲が不正をしている環境に1日でも多く浸かっていてはいけないことはわかるはずです。

一度不正の環境に浸かると、簡単には更生できない

 私の恩師の1人である会計士の先生が、「5年不正の環境に浸かったら、通常の感覚に戻るのに最低5年はかかる」と言われたことがあります。そして、私もそれを実感した経験があります。

 そういう人を観察していると、会社が正常な環境に戻っても、意識をしていないといつの間にか不正につながりかねない行動をしてしまうのです。たとえば、現金の残高と帳簿の残高が合っていないのに、とにかくどちらかに合わせなければと焦って調整してしまったり、資料のチェックをしていないのに「した」と反射的に嘘をついてしまったり、本人には悪気がないのに手や口が勝手に動いてしまうのです。

 これは、今まで「赤信号は渡っていい合図だよ」と何十年と教え込まれてきた人が、「やっぱりそれは間違いで、今日から止まれの合図ね」と言われたようなもので、皆と一緒に行動したり、意識している時はいいのですが、他のことを考えて歩いていたり、急いでいたりしたら、赤信号を見て止まるべきものが、今までの癖で衝動的に走り出してしまうのと同じことなのです。それが不正だと思っておらず「正常な行為」だと思って、あるいは教えられて長年やっていたので、なかなか直せないのです。

 私がこのタイプの不正が罪だというのは、特に不正会計というのは、会計のことがわかっている人がやり、会計の知識が未熟な段階にある人はその不適切な環境が「正しい」と認識し染まってしまうからです。不正の張本人は単独、あるいは一部の人間だけがやっていることだから、全社的な影響はそれほどないと思っているのでしょうが、そうではないのです。

 不正の環境に洗脳されてしまった人を更生するのは、周囲も気を遣いますし、何より本人が大変なのです。肝心の不正をした人は反省して更生すればまたどこかで働けるのでしょうが、未熟な段階で不正の環境に「染められてしまった人」は、数年後、ふと不正時代の癖が違う職場で出てしまうかもしれませんし、管理職になった時につい不適切な処理をしてしまうかもしれないのです。

自分が不正をしていなくても「受動不正」の習慣が根付く

 「受動喫煙」という言葉がありますが、職場の習慣も受動的に染まっていく場合があります。

 たとえば外線電話が鳴ったときに、社員はどういう反応をするか。誰宛てのものでも3コール以内で全員が取る職場と、10コール以上鳴っても誰かが根負けして取るまでお互いに絶対に取らない、という職場の真っ二つに分かれます。これは、誰か影響力のある人の習慣に、無意識に徐々に全員が染まっていくということなのでしょう。それが良い習慣であればいいのですが、悪い習慣、怠惰な習慣であれば、概念を考えることなく、皆がその習慣に従い、染まっていくのです。実際に「なぜこの職場の人たちは電話が鳴っても誰も出ようとしないのですか」と尋ねても、「いや、特に意味は......」というのも当然のことなのです。

 それと同じように「受動不正」というものもあると思います。

 つまり、自分は不正をしていなくても、近くに不正をしている人がいたら、知らず知らずのうちに、その人の習性が身体に染みついてしまっているということです。

 その最たる例が「横で堂々と不正をやっているのに本当に気付かない」ということです。長きにわたり伝統的にデータを改ざんしている、都合の悪い数字が出てきたら修正している、という場合、初めて不正の現場を見たり、不正の指示をする会話を聞いたりすると「あれ? おかしくないか?」と思うはずですが、20人いる職場で誰1人顔を上げず、平然と日常業務をこなしていたら、「自分の勘違いかな」「これは合法的にやっていい処理なのかな」と、自分の認識が間違っていたのかと錯覚してしまうのです。

 特に新入社員や専門知識を有していない社員は、先輩から「毎年やっていることだからね」「どの会社もやっていることだからさ」と明るく指示をされたら、何の躊躇もなく不正の処理に加担してしまうことになります。そして、1年が過ぎ、また新しい社員がやってきたら、今度は自分が先輩として「この資料、自分も昨年やったけど、同じようにデータ直しておいて。わからなかったら教えてあげるから」と後輩にデータの不正改ざんを1つの業務として教えてしまうのです。

 「隣の人のやっている行為は知っていたけど、それが不正行為だと知らなかった」「自分はただ先輩にこうやればいいと仕事を引き継いだだけの意識しかなくて、不正処理だとは知らなかった」ということも現実としてあるのです。

◇   ◇   ◇

前田 康二郎(まえだ こうじろう)
流創株式会社代表取締役。
1973年生まれ。学習院大学経済学部卒。数社の民間企業で経理・IPO業務を中心とした管理業務、また海外での駐在業務を経て、2011年に独立。現在はフリーランスの経理として、経理業務や利益を生む組織改善の提案を中心に活動を行っている。著書に『スーパー経理部長が実践する50の習慣』(日本経済新聞出版社)、『1%の人は実践しているムダな仕事をなくす数字をよむ技術』(クロスメディア・パブリッシング)。

[この記事は2017年2月8日の日経BizGateに掲載したものです]

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