社長の「しょうがない」が不正を誘発する流創株式会社代表取締役 前田康二郎(3)

簡単に不正ができる時代だからこそ、ミスを報告しやすく

仕事のミスというのは、誰でも報告をしたくないですし、できることなら報告しないまま終わらせたい、皆に気付かれないうちに挽回して帳消しにしたいと考えてしまうものです。しかし、基本的にそのようなことをして良い結果になる確率は限りなく低いことは、皆さんも経験上おわかりだと思います。そこまで挽回できる人であれば、そもそもミスや失敗はしていないことでしょう。

不正を防ぐ方法のひとつとして、社員がミスを隠さない環境づくりを考えなければいけません。特に今の時代は、「上司に言うと理由も聞かずに激高するから言いたくない」という人も多いので、まず、ミスを報告されただけの時点では怒らず、なぜミスが発生したのかの理由や言い分を聞く。その人自体を叱るのではなく、その人の仕事のやり方を叱る、つまり「仕事を憎んで人を憎まず」という環境作りが重要ではないかと思います。

というのも、以前は、大がかりな不正は限られた職種の社員や、権限を持った職責の社員にしかできませんでした。現場や本社の重要な資料や通帳などはロッカーや金庫に厳重に保管され、しかるべき人しか鍵を扱えなかったからです。

しかし近年は、システム化が進んだことで、新入社員や中途社員であっても、アクセスさえできれば大掛かりな不正行為が簡単にできてしまいます。会社の機密資料や重要資料もデータ化されているので、自分の不正をごまかすためだけに、関係のないものまで不正アクセスして廃棄や差し替え、改ざん、社外秘の情報なども簡単にダウンロードして社外に漏洩させることも可能です。

動機は単純な、自己保身のためだけの小さなものでも、実行した後に本人も想定しなかったような甚大な被害が会社や取引先に起こる可能性があるのです。そしてそれに途中で気付いても、自分たちでは止められないほどのスピードでデータや情報が拡散していきます。一昔前とは全てのものの拡散のスピードが、何倍、何十倍も違う、ということを私たちは常に認識していなければいけません。

ですから、些細な動機、ほんの出来心でも、社員がそのような心境にならないように、常日頃のモラルの啓蒙が必要なのです。本人たちが不正を始めてしまい、途中で我に返ったというのではもう「手遅れ」という時代なのです。

1枚の張り紙が教えてくれること

ある会社に訪問した時に、ロッカーに次のような張り紙がしてありました。

「ここから備品を持ち出すときは、必ず〇〇に声をかけてください」

在庫の管理をしている新入社員の〇〇君が自分で考えて貼ったそうです。これがまっとうな「見える化」であると思いました。

近年「見える化」と声高に叫ばれますが、その内容を見聞きしていると、ただ単に膨大な管理リストを作ったり、あるいは15分刻みでどんな仕事をしたかという日報の作成を社員に促したり、「単に社員の作業負担になっているだけでは?」というものも多く存在します。

見える化の目的は、それによって、より皆が快適な仕事環境になるということですから、社員の作業負担になる見える化は、本来の目的にかなってはいないのです。

新入社員の張り紙は、その一文だけでさまざまなことに気付かせてくれます。

・ここに在庫の備品が入っているということ
・〇〇君が在庫管理の担当をしているということ
・在庫の備品を勝手に持ち出している人がいるということ
・会社の備品を勝手に持ち出すということはいけないということ

このように長々と文章を書かなくても、「ここから備品を持ち出しするときは、必ず〇〇に声をかけてください」というシンプルな一文で全てを表現しているのです。

そして、もしその張り紙がなければ、他の社員は、

・備品が社内のどこにあるのかわからない
・備品を持ちだすときに許可がいるのかいらないのかがわからない
・備品が在庫切れだったら誰にそれを聞けばいいかがわからない

と思う人もいることでしょう。

「不正」を抑制する見える化

こうした「見える化」であれば、その日新しく入社した人でも、「備品のことは〇〇君に聞けばいいのか」と誰に聞かずとも認識することができます。

そして「この会社はしっかり在庫の管理をしている」ということも同時に認識してもらえます。

なかには、「前職の会社は在庫の備品が持ち出し放題だったから、それが当たり前だと思っていた」という人も実際にいます。私がいつも仕事先で経営者や社員の方にお伝えしているのは、たとえ今日現在は同じ会社に所属する社員だといっても、そこに至るまでの育ってきた環境、仕事をしてきた環境はさまざまですので、「自社のモラルはこうです」と手抜きせずに丁寧に社員にはっきりと伝え続けなければ、不正は起こりやすいということです。

在庫は特に「持ち出し」「換金」「数値の不正操作」など、不正の温床になりやすい場所のひとつですが、新入社員が自ら考えた一文で、冗長なうんちくよりも、すんなりと社員に受け入れられることもあります。このような「不正を抑制する」見える化が他にもできないか、各人が考えてみてはいかがでしょうか。

前田 康二郎(まえだ こうじろう)
流創株式会社代表取締役。
1973年生まれ。学習院大学経済学部卒。数社の民間企業で経理・IPO業務を中心とした管理業務、また海外での駐在業務を経て、2011年に独立。現在はフリーランスの経理として、経理業務や利益を生む組織改善の提案を中心に活動を行っている。著書に『スーパー経理部長が実践する50の習慣』(日本経済新聞出版社)、『1%の人は実践しているムダな仕事をなくす数字をよむ技術』(クロスメディア・パブリッシング)。

[この記事は2017年1月31日の日経BizGateに掲載したものです]

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