伊勢エビが告げる秋 超A級グルメ、おいしく食す秘訣

房州エビ、鎌倉エビ、志摩エビ、具足エビ…。
聞きなれない名前だが、これらはすべて皆がよく知るあのエビの別名である。

それは伊勢エビ。結婚式や新年の祝いなど、おめでたい席には欠かせない、ニッポンの超A級食材だ。

ヒゲが長く腰が曲がっている様子を老人に例え、長寿のシンボルとして。はたまたゴツい甲羅が武士の甲冑を連想させるため、武勇のシンボルとして。元気よくピンピンと跳ねる様子から、無病息災のシンボルとして。室町時代の絵図には大量の伊勢海老を料理する様子が描かれるなど、古くから宴席の常連であり、縁起物としても、味の面からも非常に人気であった。

人気が高いということは、安売りする必要がないということでもある。実際、伊勢エビの値段は高騰することはあっても、今年は大漁だからといって激安になることはない。

江戸時代、井原西鶴の浮世草子にも「伊勢海老の高買」「伊勢海老は春のもみぢ」という、いずれも伊勢エビが高価であることを下敷きにした話があり、すでに当時から高嶺の花であったことがうかがえる。

究極の美味だが庶民の口にはめったに入らないのが、たまにきずである。

房州、鎌倉、志摩などの別名からわかるように、かつて伊勢エビは獲れた場所の名前で呼ばれていた。生息域は意外に広く、千葉県を北限とした太平洋沿岸の各地から、九州、台湾、朝鮮半島にまで広がる。

ところで「伊勢エビ」と一口にいうが、実は伊勢エビとは「伊勢エビっぽいエビの総称」である。厳密に言えば千葉県の伊勢エビと長崎の伊勢エビは種類が違うのだ。

またニュージーランドや南アフリカなどにも近い種類が生息し、輸入もされている。おおむね、南の方が大型化し、北の方が身がしまっていると言われるが、食べ比べてわかる人などそうはいまい。おそらく「どちらもおいしい」となるはずだ。

どこで育ったかよりも個々の状態に注意したい。

伊勢エビはとかく脱皮する生き物で、脱皮前は身が痩せておいしくない。さらに死ぬと急激に劣化する。伊勢エビ料理の白眉である、プリプリとした食感を味わいたいのであれば、地域差よりも個体差をよく吟味するといいだろう。

さあ、産地では次々と解禁されている。食べるなら、今だ。
写真提供:千葉県鴨川市 EBIYA.CAFE(一部を除く)
(食ライター じろまるいずみ)
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