おでんは国際派 シンガポール、台湾、韓国でも人気
おでん再論(4)
西日本のおでん種「ころ」から波及した「塩鯨」が意外な展開を見せている。まずは、これを概観しておこう。
塩鯨を使った鯨汁は北海道南部の年越しの食べ物。おさらいしておこう。
新潟ではかつて塩鯨はカレーにも入った。北海道の昔の囲炉裏周辺と塩鯨の光景は貴重な証言ではないだろうか。農文協の「聞き書き」シリーズの1ページを読んでいるような気分である。
九州の塩鯨は赤い。
焼いても塩を吹くぐらいの塩気でしたので、私はもっぱらお茶漬けにして食べていました。子供心に「しょっぱいなぁ」と思っていたのを思い出します。ですのでおそらく福岡市周辺では「おでん種」では使用されていなかったのではないでしょうか?(肉屋の店長さん)
鯨の表面の黒い皮と皮下脂肪のブロックも塩漬け状態で売られていました。これは野菜を煮て食べるときの油および出し汁の素として利用していました。今考えると現代の豚のベーコンと同じ使用方法でした(東京のカチガラスさん)
筑後川下流域の農村地帯ならば、ずばり私が生まれ育ったところである。子どものころ、春日八郎の「お富さん」を流しながら魚屋さんがトラックで集落にやって来た。氷がいっぱい入ったトロ箱には確かに鮮魚もあったが、母がいつも買っていたのは冷凍の鯨肉だった。真っ赤っかでジャリジャリに凍っていた。それが「お刺し身」としてちゃぶ台にあがったものである。私は長い間、お刺し身というのは時間がたつとクニャっとして赤い汁が出てくるものだと信じていた。そんな光景を思い出していたら、赤くて硬い塩鯨の姿が脳裏に浮かんできた。我が家の鯨ジャガは、あの塩鯨を塩抜きして作っていた疑いが浮上。
デスク赤面 丸ノ内の新スポット特集で、ある九州料理店を取材したところ、おすすめ料理として出された鯨刺し盛りのベーコンの隣に真っ白い脂の上部が黒くなっている物体を発見。コーフンしながら店長に「こ、こ、これって塩鯨ってやつですか」と質問したところ「ころです」とのお答えでした。名前間違えた! でも、カメラマンが隣でぼそっと「刺身じゃないじゃん」って、確かに乾物ですね。ベーコンも薫製。
あるものが食べられるのには理由があり、食べられないのにも理由がある。塩鯨には皮の部分を使ったものと赤身を使ったものがあって、それぞれの土地で必要に応じた食べ方がなされてきた。島野さんのメールの後半部分、なるほどと思ったのである。
鯨肉の食べ方地図というものがあるのだろうか。私は未見である。馬肉食地帯の分布図も未見。私たちが作るしかないのだろうか。が、本題はあくまで「おでん」である。
おでん研究家、新井由己さんの著書『日本全国おでん物語』(生活情報センター、1400円)が届いた。カラーグラビアや写真説明を見ていて思ったのだが、私たちがこのサイトで話題にしてきたことがほとんど網羅されている。ということは新井さんは凄いが、同時に読者の皆さんの目の付けどころもまた非常にスルドかったということである。まんもすうれぴー。
デスク警告 エミーはともかく、「編集委員」は正しい日本語を使いましょう!
エミー隊員 エ、エミーはいつも正しい日本語を使ってるのに…まんもすかなぴー。
日本に帰ってきたゴンタさんは、おでんのときは最後にご飯におでんのつゆをかけて、猫飯のようにして食べるそうだが、これは正統おでん専門店でもままみられることらしい。
新井さんの本には、おでんの汁をご飯にかけた「汁かけ飯」を出す店や、茶飯におでんのつゆをかけた「おでん茶漬け」をメニューに加えているところが紹介されている。今度やってみよう。
同書をみると、沖縄のおでんにティビイチ(豚足)は必須で、ソーセージも不可欠。青菜が入るのも特徴とある。青菜にはレタスのほか小松菜、ホウレン草、エンサイなどを用いるそうである。
この店も新井さんの本に登場する。サラダを作っているときにトマトがおでんの鍋に入ったのがきっかけで、トマトおでんが誕生したのだそうだ。わーお。
あんまり内容を書くと本の売れ行きに影響を与えてしまうかもしれないので、これまでにする。
S.I.さんからロールキャベツについてのメールをいただいている。新井本にはその発祥の店が紹介されているが、私は発売前にそれをバラす勇気はない。
島野さんからは「大阪市生野区のお好み焼きとおでんの店『みさと』では、おでん種をお好み焼きの具にしてくれる」との情報。どうしてそんなことしてくれるの?
韓国や台湾にも「おでん」があることは広く知られているが、あの国にもおでんがあった。しかも麺つき。
街中のヨンタオフー屋に行くとガラスケースに練り物が並んでおり、各自ラーメン丼ほどの大きさのお椀に好きなだけ取り、「スープ」か「ドライ」を選びます。
必ず麺が付きます。麺はビーフン、卵麺、白麺(細うどんより、ココロもち細い)など様々ですが、もれなくついてます。通常、麺は「おまけ」なのでタダです。
お椀を屋台の中の人に渡すと、大鍋でゆで上げてくれます。「ドライ」はゆでて皿に上げます。焼きそばあるいは皿うどん状態。「スープ」はゆでたものにスープがかかっているので、見た目はおでんが沢山入った汁そばです。スープにはごく薄い塩味、カレー味(カレーと言ってもココナッツカレーです)、など数種類があります。
2種類のタレでいただきます。辛いチリソース&甘い甜面醤(テンメンジャン)ソースです(星のあいすさん)
所変わればとは言うけれど、ここまで変わるのである。種のユニークさもさることながら、麺がもれなくついてきて一緒に食べるというのである。しかも日本や韓国、台湾のように煮込まない。ちょっとゆでるだけ。「スープ」は韓国のおでんうどんに似ているし、「ドライ」は前々回Kazusuketさんから写真を送っていただいた「おでん焼きうどん」を彷彿させる。どちらにしても面白い。冬休みにシンガポールに行く予定がある方、ぜひヨンタオフーを試して写真を送っていただきたいものである。
デスク興味津々 ココナッツカレー味おでんですか、かなりそそられます。
エミー隊員 自腹が大きくなる一方ですね♪
水産練り製品というのは地球上のどの辺で食べられているのだろうか。中国料理に入っているのは見たことがないが、入る料理もあるのか。インドネシアやタイ、ベトナムなどではどうなっとるのか。タイ料理にはある。いわゆる薩摩揚げに甘いソースをつけて食べる。ではタイにもおでん類似の食べ物があるのかな。
いずれにしても非常にアジア的な食べ物のようではある。
さて、VOTE。知りたいことは山ほどあるが、新井さんの先行調査とダブらないような項目に絞る。
まずおでん常食地帯であるか否か。おでん専門店がないからといっておでんを食べないとは限らないことは四国の例をみれば明かである。逆におでん専門店が多いところは、まず常食地帯と考えられる。おでんはどこで好んで食べられているのか。逆に食べられていないのか。
デスク確認 では、おでん屋の少ない千葉でも「常食地帯」でいいんですね?
しょっちゅう食べていればね。
第2点はおでんに入る芋は里芋かジャガイモかはたまたサツマイモか山芋か長芋かタロ芋か。日本で芋といえば昔から里芋だから里芋というところが多そうだが、絶対ジャガイモ地帯も存在すると思う。
投票総数は1500オーバーになった。ありがとさん。
で、どのへんでおでんをよく食べ、どのへんは食べないかを見てみよう。「よく食べる」「まあまあ食べる」「食べることもある」「ほとんど食べない」を指数化してみたら、食べる度合いが強い順に徳島、栃木、高知、和歌山、沖縄、愛媛、秋田、富山、香川、三重となった。驚くことに上位10県に四国4県がそっくり顔を出しているではないか。讃岐うどんとおでんの密接な関係についてはすでに我々の知るところではあったが、4県そろっておでん常食地帯とは意外であった。
これをもって私は四国を「ひょっこりおでん島」と命名する。
逆に食べない県の筆頭は山口。なんとエミー隊員のふるさとこそ全国一の「非おでん県」であったのだった。エミー隊員、何かこころ当たりはある?
エミー隊員 私が子供のころは平べったい鍋を卓上コンロにかけてよくおでんを食べてましたけど…。まあ、卓上コンロに中華鍋を置いて麻婆豆腐を食べる家ですから。平均的な姿ではないのかも。
その次に食べないのが鹿児島。以下、新潟、山形、宮崎、大分、佐賀、北海道、福島、神奈川、熊本となる。
山口を勝手に九州に編入してもしなくても九州と山口は、おでんをほとんど食べない地帯のようである。ただし、福岡だけは孤立したおでん常食地帯である。福岡県人がラーメンとおでん、うどんとおでんという和歌山と四国の特徴を横取りしたような食べ方をすることはすでに我々の知るところではあったが、なぜ福岡だけが九州の他県をそでにしているのであろうか。
次に「おでんに入れる芋」。里芋派が多かった上位10県は熊本、福井、岐阜、大分、愛知、福岡、鹿児島、鳥取、富山、宮崎。全部西日本である。しかも佐賀、長崎を除く九州勢がそろうとるばい。どげんしたこつね。
「ジャガイモ派」の強い10府県は徳島、奈良、大阪、沖縄、兵庫、愛媛、香川、広島、茨城、山口。
わーお、茨城を除けばやっぱりみーんな西日本。それも沖縄以外はぞろっと関西・中四国やおまへんか。
では東日本はどうなっているのであろうか。「おでんに芋は入れない派」を見る。入れない度が強い方から山形、秋田、山梨、佐賀、宮城、福島、宮崎、新潟、北海道、長崎となった。佐賀、長崎、宮崎でなぜ芋を入れない派が多いのか現時点で不明だが、概して東日本ではおでんに芋が顔を出す機会は少ないと考えていいだろう。北海道ではがんがんにジャガイモが入っていると思っていたのに、思わぬ結果である。知らなかったなあ。面白いなあ。
エスビーホンコン焼きそばに対する反響が続々来着。その中からいくつか。結局、北海道には限定物件がたくさんあるという話になった。
現在は発売当初から人気のあった地域、「北海道全域」と「仙台市(宮城県ではない)」と「大分県の一部(詳細不明)」でのみ販売されております。
ただインターネットが普及した今日ではネット通販で買えます。ただし1箱30食入りのみですが。
はるか昔小学生のころ、土曜日が半ドンで終わり家に帰って来て自分で作った焼きそばをコアップガラナやリボンシトロンとともに、松竹新喜劇(決して吉本ではない!)の藤山寛美さんのテレビを見ながら食べるのが楽しみでしたね(髭さん)
ちなみに、やきそば弁当と、そうなるとやきうどん弁当も道内限定です。ダブルラーメンも。グリーンめんも。限定ついでにカルビーの堅揚げポテトは関東以北で、ブラックペッパー味は東北と北海道地区だけだそうです。ブラックペッパー味はビールのつまみにめちゃくちゃいいです。ナシオのぽてちもそこはかとなくめちゃくちゃ美味いのですが、これも道内限定なのでこれ幸いと土産によく買います。
北海道は限定商品とか濃厚な食の方言が生活の中にかなり生きてて、そんな発見が非常におもしろいです。ガラナもそうやったしー、リボンナポリンとかカツゲンとか甘納豆の赤飯とかね。天地がひっくり返るほどショックでした(和歌山生まれ札幌在住のちろこさん)
ということである。
それにしても北海道にはどうしてこんなに限定商品が多いのだろう。特殊味覚体系が存在するとでもいうのであろうか。東海地方の「ころうどん」」の「ころ」の語源と同じくらい謎である。
さて次のテーマは「お餅」。都内で冊子の編集をしている馬場さんという方からメールをいただいていた。「鏡開き」のテーマでページを作ろうとしたら、行事そのものが絶滅の危機に瀕していることが明らかになったのだそうである。しかも最近売っているお供えの餅は外見こそ大きな丸餅の姿をしているが、それは張りぼてで中からはパックした切りもちが出てくるものが多い。これではカチンカチンになった餅を木づちで割ってぜんざいを作ったりすることはできないのである。
馬場さんは悩み抜き、最近は夢にまで餅が出てくると訴えておられるのである。
この機会に日本の餅はいまどうなっているのか問題に取り組みたい。私は餅は焼くものだと思っていたのに、火鉢やストーブがなくなると焼けなくなってしまった。仕方ないから煮て食べる。表面が焦げてカリカリ中フワフワが私にとっての餅の食感だったのに、今はそれを味わう術もない。オーブンじゃ大げさ過ぎるし。
切りもちと丸餅の境界線は糸魚川・静岡構造線辺りと言われてきたが、最近は変化が起きているのではないかとも疑っている。
ある若い人に「鏡開きって知ってる?」と聞いたら「ああ、ふた割ってお酒飲むやつですか?」という答えが返ってきた。このように一部で鏡開きと鏡割りとの混同もまた発生しているようである。
エミー隊員 それって私じゃありませんよね?
自供?
(特別編集委員 野瀬泰申)
[本稿は2000年11月から2010年3月まで掲載した「食べ物 新日本奇行」を基にしています]
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