旅から生まれた挑戦者(17) 「王国」でイベント競う
ハウステンボス社長 沢田秀雄氏
「観光ビジネス都市」構想を掲げている。
ハウステンボス(長崎県佐世保市)を経営支援すべきか検討していた2009年の秋から冬にかけて、ひとりで何度も現地を訪れました。オランダの街並みを再現した園内を歩きながら経営再建の可能性を思案していた時、あるアイデアが浮かびました。「ここはテーマパークではない。ひとつの都市だ」
ハウステンボスに観光関連の産業集積を目指す
モナコ公国とほぼ同じ152万平方メートルの敷地にはアトラクションや商業施設、ホテルだけでなく、分譲住宅といった都市機能がそろっています。景観を損ねる電線は地中に埋められており、街並みは本当に美しい。しかも私有地のため、一般の市街地のような法規制が少ない。都市に見立てた園内で様々なビジネスの挑戦ができるはずだ――。観光に関連したビジネスをハウステンボスという都市に集積させて、アジアで最高の観光ビジネス都市に育てようと考えました。
首都圏から遠く離れ、雨も多いハウステンボスは、テーマパークとして不利な条件ばかりです。立地や商圏規模などに恵まれた東京ディズニーリゾートやユニバーサルスタジオジャパンに、テーマパークとして勝負を挑んでも勝てません。
しかし観光ビジネス都市として、ほかのテーマパークにはない最先端技術の実証実験を入場者が体験できる機会を増やすだけでも、世界の競争に勝てるはずです。
15年7月に立ち上げた「健康と美の王国」では、医療分野のベンチャー企業を誘致しました。「健康の館」という施設内で、がん免疫療法を手掛ける東大発ベンチャー、テラのグループ企業が最先端の医療機器を使った遺伝子検査などを提供しています。
入場者数は15年ぶりに300万人の大台を超えた。
毎年ひとつは「王国」を冠したイベントを立ち上げ、16年には"6カ国目"の「ロボットの王国」をつくります。最先端のロボットをハウステンボスに集める計画で、ステージでロボットがダンスを披露するほか、ロボットレストランなども検討しています。
7つの王国がそろった後は、毎年ひとつの王国を入れ替えていきます。人気のない王国は滅びるのです。各王国の担当者は自分の国を守ろうと必死に新しいイベントを企画することで、毎年ハウステンボスを訪れるリピート客の獲得にもつながるはずです。
王国には城が欠かせません。「城」を冠した物販や飲食施設も営業しています。「カステラの城」は九州で最も多い100種類以上の品ぞろえを誇っています。
こうした企画やイベントを社員が提案することが増えてきました。巨大な施設に映像を投影する「プロジェクションマッピング」では先駆けとなり、ほかのテーマパークも相次ぎ導入しています。社員はいつも、他がやっていないイベントの企画を考えています。「負け戦」に慣れた社員はもうほとんどいません。