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揚物 天ぷらの極意とは…表面「からっ」内は蒸し焼き京都「木乃婦」3代目若主人 高橋拓児

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揚物は、日本料理の基層概念から言えば、完全に亜流のジャンルです。日本料理は、「昆布と鰹節のだしを中心としたほとんど油を使用しない低カロリーの料理」というのが基本です。現在、皆さんが食べている天ぷらは油を使っていないでしょうか? いえいえ、どっぷりと油に浸かっています。ですので、もちろんほかの日本料理よりカロリーも高くなっています。

揚物は、日本料理の中の異端児?

日本料理の代名詞=PIXTA

日本料理の基礎から言えば、天ぷらをはじめとする揚物は「日本料理」とは言えないのではないでしょうか? しかし、日本人は天ぷらを筆頭とした揚物を日本料理だと思っています。そして海外でも、今や寿司と並んで天ぷらが日本料理の代名詞となっていて、外国人さえも日本料理だと思っています。

不思議に思われる方もいらっしゃるでしょう。そのような調理法がいつどうして日本料理に組みこまれたのでしょうか。また、その必要性はあったのでしょうか。このことについても歴史が教えてくれます。天ぷらと日本の歴史を、順を追って説明しましょう。

天ぷらは「揚物」であると同時に「蒸し物」である

天ぷら盛り合わせ

これまで見てきたように、天ぷらの歴史をさかのぼってみると、まさに同化という言葉がふさわしいと思います。3つの時代ごとに、さまざまな角度から異文化の影響を受けました。

ひとつ目の時代は、神に供える神饌、庶民には手の届かない舶来ものの贅沢品という角度から、2つ目の時代は、質素な精進料理のための栄養源という角度から、そして3つ目の時代は、油脂の美味しさと西洋の調理技術の新発見という角度からです。

揚物はどの時代においても、外国の宗教・異文化とともに日本にもたらされてきました。その際、日本人はすべてをそのまま受け入れる訳ではなく取捨選択し、日本の文化になじむものだけを抽出して取りこんでいきました。その後、徐々に変容させながら揚物を日本料理のモデルへと作り替えていきます。それが3つ目の時代以降です。

それを具体的にお話ししましょう。日本料理に取りこむ前は、揚物とは食材に衣をつけ、油で揚げることによって油脂分を加え、カロリーを高めることに重点を置いていました。いわゆる油物です。

しかし、その油物は日本料理に取りこまれると、実は半分揚物、半分蒸し物という特性を持つようになったのです。その代表格が天ぷらです。衣をつけて油で揚げるだけと思われがちな天ぷらですが、科学的に見れば非常に高度な調理法なのです。

一例として、海老の天ぷらを考えてみましょう。

キンキ唐揚げ=PIXTA

まず、油鍋にたっぷり油を入れて、180℃まで温度を上げておきます。次に、海老の頭と背わたを取り、皮を剥き、腹側に包丁で切り目を入れ、プチプチと音が鳴るまで指で海老の背を伸ばし、真っ直ぐにします。小麦粉は海老の身に薄くつけておきます。

続いて、ボウルに入った冷水に卵黄を入れ、撹拌します。そこにふるいをかけた薄力粉を何度かに分けて入れ、混ぜます。この時、私たちが普段使う箸ではなく、太い箸を使ってやさしく切るようにして小麦粉の中にグルテンの粘りが出ないように混ぜます。だまが残っても結構です。

ここに先ほどの海老をくぐらせ、油の中に投入し、中心に程よく火が通ったら、油を切って揚げ台に移します。あとは、皆さんご存じのように塩か天だしで食します。

この一連の調理を科学的に考えてみます。

まず鍋は熱伝導のよい厚手の銅鍋を使い、たっぷりの油を入れることによって、180℃の温度を保てるようにします。熱伝導のよい銅鍋を使うと、火力の調整をした時の油の温度変化が早く、思った温度に短時間で移行させることができるのです。

水分が一気に蒸発し、さくっとした歯ごたえに=PIXTA

熱した油は、海老を入れると一気に温度が下がります。油は比熱(1グラムを1℃上げるのに必要な熱量)が水の半分ととても低く、熱しやすく冷めやすいという特徴があるのです。ですから油の量を多くして全体の熱容量を大きくし、海老を入れた時にできるだけ温度が下がらず、すぐに180℃に戻るように調整します。戻る時間が短いほど、カラッと揚がります。油の量を多くしても、食材自体の温度が低いのと、食材に含まれている水分の蒸発によって多くの熱が奪われるため、1回に入れる海老の量が多ければ油の温度は一気に下がってしまうので注意しましょう。

さて、この揚げるという行為ですが、ここでは、2通りの調理法が同時に行われています。

まず、衣を油に入れると、中に含まれている水分が一気に蒸発し、水が抜けます。水が抜けると、衣にはスポンジのように空洞ができます。そこに油が入りこみ、水と油の交代現象が起きます。180℃で焼かれた状態になり、しっかりと水が抜けた衣ほど、当然カラッと揚がり、さくっとした歯ごたえになります。かつ、衣に含まれている糖とアミノ酸がメライジンという褐色物質を作るメイラード反応を起こして、揚げ色がつき、時間経過とともに色が濃くなっていきます。

では海老自体にはどのような反応が起こっているのでしょう。生の海老に含まれている水分は、加熱されている衣の熱伝導で比較的ゆるやかに温度が上昇していき、衣の内は100℃以上にならない状態で保持されます。つまり「揚げる」という調理法によって、衣の内側は海老自体の水分によって「蒸されて」いるのです。

[「10品でわかる日本料理」(日本経済新聞出版社)から抜粋]

高橋拓児(たかはし・たくじ)

1968年京都生まれ。大学卒業後5年間「東京吉兆」での修業の後、実家である京都の老舗料理店「木乃婦(きのぶ)」の3代目若主人に。シニアソムリエ。京都大学大学院農学研究科修士課程修了。

木乃婦HP=http://www.kinobu.co.jp/

10品でわかる日本料理

著者 : 高橋拓児
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,620円 (税込み)

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