ヨーロッパでチョウの5種に1種が絶滅危機 一体何が?

2021/12/18
ナショナルジオグラフィック日本版

環境保護団体パイザッチャス・ビウスは、スペインのピレネー山脈に広がる耕作放棄地に、近隣の草原から集めてきた種子をまき、チョウが好む野草の草原を作り出した(PHOTOGRAPH COURTESY PAISATGES VIUS)

生物学者のコンスタンティ・ステファネスク氏は、25年前の夏から毎週、スペイン、カタルーニャの各地を歩いてチョウを数えている。2020年7月のある晴れた日、彼はフランスとの国境、ピレネー山麓の草原に足を踏み入れた。昔は、この草原に咲く野生の花々に集まるヒメシジミを50匹も60匹も数えたものだった。

この草原にチョウが多かったのは、農家が年に1、2回だけ草を刈り、その干し草を冬の間の家畜の餌にするという昔ながらのやり方で牧草地を維持していたからだ。しかし、ステファネスク氏がこの場所でチョウのモニタリングを始めてから数年後、農家は牧草地の管理をやめてしまった。やがてイバラが茂って野草を駆逐し、ついには森になった。森に適応した数種のチョウが現れたが、ステファネスク氏がかつて記録していたような多様性は失われてしまった。

カタルーニャ地方に生息するチョウの約90%は、花の豊富な草原を生息地としている。しかし、これら草原のチョウは、ヨーロッパ全体で激減している。科学者らの報告によると、草原性チョウ類の生息数は1990年から2017年までの間に39%も減少している。なかでも顕著だったのがカタルーニャ地方だ。ここでは過去25年間で、最も一般的な草原性チョウの個体数が71%も減少した。

チョウを圧迫している要因は2つある。一つは、小規模な畜産場が工業的農業に取って代わられたこと。チョウに優しい小さな草地が、トウモロコシやヒマワリなどの単一作物の大規模な畑に変わってしまっている。もう一つが、牧草地や畑が放棄され、森林へと変わりつつあることだ。どちらの変化もチョウを脅かしている。

ヨーロッパ全体で減っている

現在、ヨーロッパのチョウの5種に1種が絶滅の危機にひんしているか、それに近い状態にある。オランダでは1990年以降、生息するチョウの半数が失われた。ドイツでも、クレーフェルト昆虫学会が2017年の研究で、自然保護区における昆虫の生息数が27年間で75%も減少したことを明らかにした。近年の多くの研究から、チョウだけでなく、あらゆる昆虫の個体数が激しく減少していることがわかっている。

チョウと生息地を共有し、その幼虫を食べる農地の鳥たちも激減している。例えばフランスでは、過去30年間で農地の鳥の3分の1が失われた。

昆虫や鳥が暮らす土地も問題を抱えている。欧州連合(EU)の草原の4分の3以上において「好ましくない」保全状況にあり、なかでも英国とオランダでは半自然草原の残存率が5%以下である。

国連環境計画(UNEP)は、世界的な種の損失の主な原因な農業だとしている。しかし、草原やそこに生息する昆虫や鳥の保全に関しては、農業はそのやり方次第でプラスにもマイナスにもなる。

次のページ
土地を再生させる「リワイルディング」