日経ナショナル ジオグラフィック社

2021/12/12
フランス領ポリネシアのマルキーズ諸島にあるハカハウ村で、若い男性がアウトリガーカヌーのトレーニングを行う(PHOTOGRAPH BY LAURENT WEYL, PANOS PICTURES/REDUX)

ただし、そのような稼ぎを得られるのは、フランス領ポリネシアでも一部の男性アスリートだけだ。この国には家父長制が根強く残っていて、人気ナンバーワンのスポーツであるヴァアも男性が中心だ。バーナディノさんは、「私は男性ではないので、ヴァアを仕事にすることはできません。そのことにはうんざりしています」と言う。7回も世界チャンピオンになったバーナディノさんだが、普段は警察で働いている。

テアイトで得られる賞金も男性の半分以下だ。女子の距離(14キロ)は男子の距離(28キロ)の半分だが、バーナディノさんは、機会さえあれば、女性でも十分同じ距離を競えると言う。そして現在、彼女は、25キロのレースに向けたトレーニングを行っている。

バーナディノさんは、フランス領ポリネシアのほかの女性アスリートのために道を切り開くことを自らの使命だと考え、賞金やテレビ放送、スポンサーなどに関する男女不平等について、「同じ距離を漕いだときでさえ、同じ賞金はもらえないのです」と訴えかけている。

さらに彼女は、ヴァアをオリンピックの新しい競技にしようと、国際オリンピック委員会の承認を得るための活動も行っている。それが実現すれば、オリンピックでヴァアの初代女性チャンピオンになれるかもしれない。

ヴァアを体験するには

バーナディノさんは、レースだけでなく、ヴァアの個人レッスンも行っている。新型コロナウイルスのパンデミック前にタヒチを訪れたとき、私もそのレッスンを受けた。再び安全に旅行できるようになれば、タヒチ観光局などを通じて地元のヴァアのガイドに連絡できる。レッスンやツアーを提供しているところもあれば、アウトリガーカヌー体験とポリネシアの歴史や文化のレクチャーを組み合わせて提供しているところもある。

観戦を希望するなら、世界一過酷なヴァアのレースとも言われる「ハワイキ・ヌイ・ヴァア」がおもしろいだろう。6人チーム、交代なしで、3日間にわたってフアヒネ島、ライアテア島、タハア島、ボラボラ島を渡り、約130キロを漕いで競うレースだ。さらに、7月の初めには、複数の週にわたって行われる「ヘイバ」と呼ばれる文化行事があり、さまざまな島で、町やクラブなどを代表する選手たちによるレースが行われる。

ほかの多くのスポーツとは違い、ヴァアを引退する人はほとんどいない。40年にわたって競技を続けてきた70歳のシルビイ・オージェさんもまだ現役で、「できるかぎり続けますよ」と言う。オージェさんは、実際にカヌーに乗って練習するほかに、若い世代への伝承も行っている。

20歳のレラニー・テュアさんは、16歳でカヌーを始め、現在は高校の女子チームを教えている。「海を滑っていくような感覚が大好きです。タヒチ人にとって、海は、欠かすことのできない自らの一部です。海が私を育んでくれるのです」

(文 AMANDA MCCRACKEN、訳 鈴木和博、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2021年11月7日付]