オートファジーを抑制するたんぱく質「ルビコン」
オートファジーの存在は半世紀以上前からわかっていたが、仕組みがわからず、長い間ほとんど注目されなかった。しかし、ノーベル賞を受賞した大隅良典さん(東京工業大学特任教授)が1990年代初頭に酵母でオートファジーに必要な遺伝子を見つけたことで新たな地平に立った。また、吉森さんらが人間にも同じ仕組みがあることを解明し、世界中で研究が加速した。
「加齢とともにオートファジーの機能は低下。最近、オートファジーは老化とも関わりが深いことが判明した」。老化との関係性では吉森さんが発見した「ルビコン」と呼ばれるたんぱく質の存在が大きい。
オートファジーを促進するたんぱく質はいくつも見つかっていたが、ルビコンは逆にオートファジーのブレーキ役を果たす。これが加齢とともに増えることから、オートファジーも低下することが判明してきた。
人間など哺乳類は老化すると病気になりやすくなる。老化を止められれば寿命は延びるが、それはこれまで人類にとっては決して手の届かない領域であった。だが、老化と深い関わりのあるルビコンの動きを抑えたら老化は止まらないだろうか。少なくとも健康寿命は延びるのではないか──。
夢物語に聞こえるかもしれないが動物実験では証明されている。遺伝子操作でルビコンの働きを抑えた線虫で実験したところ、オートファジーの活性化が維持され、寿命が平均20%延びたという。そして、寿命が延びただけでなく、老いても活発に動き続けた。 「私たちの実験では通常の線虫の2倍は動いた。これは、80歳の人間がフルマラソンを涼しい顔で走るようなもの」
ルビコンの働きを抑えることで加齢に伴ってかかりやすい病気を防ぐことも解明されつつある。多くの病気で、オートファジーが低下すると病態が悪化するとわかってきた。
例えば、脂肪肝。「ルビコンを働かないようにすることで、オートファジーが機能して脂肪の分解が進み、肝臓内での脂肪蓄積を防ぐ可能性がある」。
吉森さんは、高脂肪食を与えたマウスの肝細胞で実験したところ、脂肪肝ではルビコンが増えていることを発見。一方、ルビコンの遺伝子を破壊したマウスに高脂肪食を食べさせ続けても、脂肪肝にならなかった。
また、アルツハイマー病など神経変性疾患にもオートファジーの機能低下との関係が指摘されている。
神経細胞は他の細胞と違って分裂しない。新しい細胞に入れ替わらないため、細胞の中の掃除役オートファジーの働きが重要だ。老化によって、オートファジーが働かなくなると、異常なたんぱく質などが蓄積される。結果的に、アルツハイマー病やパーキンソン病といった病気が誘発される可能性が高まる。実際、遺伝子操作で脳にオートファジー機能がないマウスをつくったところ、すべてがアルツハイマー病に似た症状をしめしたという。
脂肪肝、アルツハイマーにもオートファジーの低下が関わる

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