温暖化で広がった南極のオキアミ漁場 ペンギンに異変

2021/11/7
ナショナルジオグラフィック日本版

採餌の合間に海に漂う氷山の上で一休みするジェンツーペンギン。足の爪を使って氷によじ登る。南極半島のジェンツーペンギンは、ヒゲペンギンやアデリーペンギンに比べ、オキアミへの依存度が低い。生息数はここ40年で6倍以上増えた(PHOTOGRAPH BY THOMAS P. PESCHAK)

海氷が縮小する南極半島沖ではオキアミを狙う漁船が漁場を広げている。だが半面、オキアミが減れば困るペンギンもいる。ナショナル ジオグラフィック11月号では、温暖化がもたらした南極に迫る危機と、海の生き物たちを守る保護区の必要性をリポートしている。

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2021年1月、南極半島西岸のネコ湾に1隻のゴムボートが入っていった。この湾に暮らすジェンツーペンギンたちにとって、人間を見るのはほぼ1年ぶりのことになった。ボートから下りてきたのは、ペンギンを専門とする生物学者のトム・ハート氏と科学者が数人。新型コロナウイルス感染症のパンデミックが始まって以来、観光客がすっかり姿を消したこの地を、彼らは再び訪れた。

約2000羽が集うジェンツーペンギンのコロニーでは、巣を探す1羽のペンギンがおぼつかない足取りで歩くたびに、鋭い鳴き声がさざ波のように広がる。だが、ボートから下りたその足で、設置されたタイムラプス(低速度撮影)・カメラへとまっすぐに向かうハートには、ペンギンたちは目もくれない。ハート氏はカメラの防水ケースの中から、メモリーカードを取り出した。

ペンギンたちが産卵と子育てのために、このコロニーにすみ着いて4カ月。カメラは夜明けから夕暮れまで、1時間置きに彼らの写真を撮ってきた。長さ1340キロ、幅70キロのこの半島にはほかにも100台近いカメラが設置されていて、10年にわたって3種のペンギンの繁殖コロニーを記録している。

ここ30年の間に、南極半島ではジェンツーペンギンが急速に生息数を増やし、多くの地点で3倍以上になった。以前は海氷が多く、生息地に適さなかったもっと南のエリアにも、コロニーが拡大しつつある。それとは対照的なのが、ジェンツーペンギンの姉妹種である比較的小型のヒゲペンギンと、頭の黒いアデリーペンギンだ。ジェンツーの数が増えているコロニーの多くで、これらの種は75%以上も数が減っている。

「ざっくり言って、アデリーペンギンとヒゲペンギンが1羽減るごとに、ジェンツーペンギンが1羽増えるという計算です」と、ハート氏は話す。

ペンギンは環境の変化に極めて敏感で、豊かな海が育むたくさんの獲物を頼りに生きている。とはいえ、研究者たちは、ヒゲペンギンやアデリーペンギンが絶滅するとまでは思っていない。南極半島以外では生息数が安定しているように思われるコロニーもあり、そのいくつかは増加している可能性さえある。

「心配なのは、南極半島での減少があまりに急激なことです」と、生態学者のヘザー・リンチ氏は言う。南極海におけるペンギンの生息数の変動は、生態系が損なわれつつあることへの警鐘だ。「南極海に何らかの変化が起こったことが分かります。そして、それは文字通り、氷山の一角だということも」

この氷の世界は危機に直面している。南極半島は地球上で温暖化の進行がとりわけ速い場所の一つだ。20年2月に熱波が発生した際には、半島の北端近くにあるアルゼンチンのエスペランサ基地で、セ氏18.3度というそれまでの最高気温を記録した(例年、夏の気温はせいぜい2~3度)。気温が上がれば、半島周辺の海氷は解ける。16年には、人工衛星で氷の変化を観測し始めた1970年代以来、海氷の面積は最も小さくなった。

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