日経エンタテインメント!

だからといって、「相手のことを知って、分かった気になってしまうのも危険なこと」だと言う。

「すべての人は違うし、違ったままでいい。『すべき』『あるべき』と強要しては、相手も自分も苦しくなるだけ。思いやりながら、でも、最後のところは、分かり合えなくてもいいや、と開き直れる。その余裕は持っていたい」

知らない国の本を読み、旅をすること。美術作品を見たり、隣の人と話したりすること。そうやって得た知識と想像力を駆使して、あるがままの存在に手を伸ばしていきたい――。川内の決意は、本書で紹介される作品が放つメッセージともリンクしていく。

「美術の本といえば画家や作品が対象で、鑑賞者に光を当てたものはほとんどないと思うんです。でも、美術に限らず、音楽も演劇も、すべての文化は、作る側だけではなく、鑑賞者側の見る力、読み取る力、楽しむ力があってこそ、花開くもの。鑑賞という行為そのものの面白さも伝えられればと」

心の目が開かれる1冊である。

『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』
 全盲の美術鑑賞者・白鳥建二氏とのアート鑑賞の旅を、明るい筆致でつづったノンフィクション。西洋絵画の巨匠に始まり、クリスチャン・ボルタンスキー、大竹伸朗、風間サチコ、興福寺の仏像など、作品の前で交わされる会話は、読む者の心にさまざまな思いを巻き起こす。文中に登場する作品については、カラー図版も多数掲載されており、著者たちの会話とともに鑑賞を追体験できる。(集英社インターナショナル/2310円)

(ライター 剣持亜弥)

[日経エンタテインメント! 2021年10月号の記事を再構成]