
火星は、地表から上空まで赤い塵(ちり)に覆われている。しかし、米航空宇宙局(NASA)の火星探査車「パーシビアランス」は、これまで探索したジェゼロ・クレーター内のほとんどすべての場所で、さびた赤い色合いの中に、謎の紫色の物質を発見した。
紫色の物質は、岩石の表面を薄く滑らかに覆っていたり、絵の具のような塊として付着したりしている。米ニューメキシコ州にあるロスアラモス国立研究所の地球化学者であるアン・オリラ氏は、2021年12月の米地球物理学連合(AGU)の会合で、紫色のコーティング(被覆)を分析した初期の結果を発表した。
紫色の被覆はあらゆる形や大きさの岩石を覆っており、小石まで紫色を帯びている。これらの被覆はどのようにして形成されたのだろうか? 「良さそうな答えはまだ見つかっていません」とオリラ氏は言う。

もちろん、科学者たちは満足していない。オリラ氏とともに紫色の被覆を調べている、ロスアラモス国立研究所の宇宙惑星探査チームのリーダーであるニーナ・ランザ氏は、「分析を進めていく中で、多くの発見が期待されています」と言う。
この不思議な斑点の起源は、火星がかつて生命を育んでいたかどうかなど、この惑星の過去に関する手がかりをつかむのに役立つかもしれない。また被覆が形成される過程で、周囲の環境に関する情報が刻み込まれた可能性があり、かつての火星環境の復元に役立つかもしれない。生命に関する、より直接的な証拠を握っている可能性もある。地球上では、シアノバクテリアと呼ばれる微生物が石の表面に同じような被覆を作り出しているからだ。
このような研究は、ほかの惑星のしくみを理解することにもつながる。米ニューヨーク州にあるナイアガラ大学の環境微生物学者であるカサンドラ・マルノチャ氏は、「地質過程はどのくらい普遍的なものなのでしょうか? 惑星によってどのような差があるのでしょうか?」と問いかける。