日経ナショナル ジオグラフィック社

2021/12/11

爬虫類たちは、おもちゃや靴、炊飯器、フライヤーなど、あらゆる種類の容器に入れられ、郵便で海外に送られていく。空気も水も食べ物もないので、多くの動物は旅に耐えられない。途中で爪や手足を失ってしまうものもいる。しかし、マツカサトカゲの市場価格は数千ドル(数十万円)と高額なので、ごく一部が生き残れば、密輸業者は十分な利益を得ることができる。

2019年の「シェフィールド作戦」で捜索を受けた、メルボルンのガレージハウスに保管されていた爬虫類を調べる、ビクトリア州環境局の上級調査官マイケル・スバーンズ氏。数日がかりですべての動物を押収し、この事件は現在裁判中だ(PHOTOGRAPH BY DOUG GIMESY)

コロナ禍に伴う国境閉鎖と各種の規制は、野生動物売買のサプライチェーンを分断し、オーストラリアから輸出される爬虫類の数は減ったと見られている。しかし、オーストラリア農業・水資源・環境省の上級スポークスマンによると、この不況はカルテルに動物を確保し蓄える時間を与えたという。

オーストラリアでは、必要なライセンスさえ取得すれば、爬虫類を合法的に飼育することができる。そのため当局は、密売人がマツカサトカゲをはじめとする爬虫類を違法に隠して飼育しているのではないかと疑っている。国連薬物犯罪事務所の内部報告書によれば、コロナ禍による規制が緩和されるにつれ、東南アジアでの野生動物の密輸が増加しはじめている。

ワシントン条約の保護対象に

野生動物の密猟を現場で監視するのは難しいため、オーストラリア政府は国境での検知に力を入れている。3月には、強力なスキャン能力と機械学習により野生動物を検出する世界初の3次元(3D)X線スキャン装置が、空港と郵便施設に設置された。シドニー工科大学では、密輸された動物をにおいで識別する「電子鼻」の開発も進められている。

マツカサトカゲの個体数は比較的多いため、世界の野生生物や野生生物製品の流通を規制するワシントン条約(CITES)は、このトカゲの国際的な取引を禁止していない。つまり、マツカサトカゲをオーストラリアから持ち出すことさえできれば、国内法的にも国際法的にも禁止されることなく、海外で堂々と売買できてしまうのだ。同じ問題は、ほかの多くの動物に当てはまる。

ヘインリック氏は、マツカサトカゲがワシントン条約の保護対象とされ、オーストラリア国外でも当局が押収できるようになればよいと考えている。オーストラリアの農業・水資源・環境省の担当者がナショナル ジオグラフィックに語ったところによると、同国は違法取引のリスクが高い125種以上の生物をワシントン条約の保護対象に推薦することを予定していて、マツカサトカゲもその中に含まれているという。

とはいえ、ワシントン条約への登録には平均10年という長い時間がかかる。その1年1年が勝負だ。オーストラリアは世界で最も生物種の絶滅率が高い国の1つであり、過去200年間に哺乳類の10%以上が絶滅し、現在も1800種の動植物が絶滅の危機に瀕している。

ガードナー氏は、「マツカサトカゲのような一般的な種を注意深く観察する必要があります」と言う。「彼らが危機に瀕しているなら、ほかの動物も危険にさらされる可能性が高いからです」

ヒガシウォータードラゴン(Intellagama lesueurii)。オーストラリアの郵便物の中から発見された爬虫類は、同国の農業・水資源・環境省に引き渡され、調査される(PHOTOGRAPH BY DOUG GIMESY)

(文 JUSTIN MENEGUZZI、写真 DOUG GIMSY、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年11月17日付]