1.5億年前の恐竜、発熱・せき・鼻詰まりで死に至る?

日経ナショナル ジオグラフィック社

2022/3/14
ナショナルジオグラフィック日本版

ドリーと名付けられた恐竜は、呼吸器系の疾患にかかり、せきや呼吸困難、鼻水、熱、体重減少などに苦しめられていたと考えられている(ILLUSTRATION BY WOODRUFF ET AL. (2022) AND CORBIN RAINBOLT)

その恐竜はきっと惨めな思いをしていたに違いない。熱、せき、鼻詰まりに苦しめられ、命を落としていた可能性すらある。およそ1億5000万年前のジュラ紀に、そんな証拠を骨に残した恐竜の化石が見つかった。

2018年、米モンタナ州グレートプレーンズ恐竜博物館の古生物学者キャリー・ウッドラフ氏は、竜脚類のディプロドクスに似た若い草食恐竜の化石を調べていたとき、奇妙なことに気付いた。空洞になった首の骨のなかに、ブロッコリーのような突起部があったのだ。この化石には、「ドリー」という愛称がつけられた。

「これまで竜脚類の椎骨をたくさん見てきました。なかにはかなり変わったものもありましたが、これほど奇妙なものは初めてです」

この写真をソーシャルメディアへ投稿すると、すぐに他の研究者たちから反応があった。現生の鳥類や爬虫(はちゅう)類にみられるものによく似た構造であるという。そのうちの何人かの研究者が参加して結成された研究チームは、この突起部に関して、呼吸器に疾患があったことを示す証拠であると結論付けた。論文は、22年2月10日付で学術誌「Scientific Reports」に発表された。

「進化が始まって以来、動物には様々な病気が付きまとっていました」と、モンタナ州ロッキーズ博物館の古生物学者で論文共著者のイーワン・ウルフ氏は言う。

従って、ドリーのような化石を研究すれば、現代にみられる病気がどのように進化してきたかをたどることができるだろう。

「太古の恐竜がどんな病気にかかっていたかを知るために、このようなサンプルが役に立つかもしれません」と、米ウィスコンシン大学オシュコシュ校の古生物学者ジョセフ・ピーターソン氏は話す。

有力な状況証拠を提示

1億5000万年近く前に死んだ恐竜の病気を診断するのは、簡単なことではない。呼吸器感染症を引き起こす病気はたくさんあるため、まずはその可能性を絞り込む必要がある。

レントゲンやコンピューター断層撮影装置(CT)スキャン、顕微鏡などを使って化石の微細構造を明らかにして、重要な情報を得られる場合もある。しかしドリーの場合、呼吸器感染症にかかっていたことを示す主な証拠は、他の動物の骨との比較から明らかになった。

鳥は現代まで生き残った恐竜であり、ワニは現代に生きる動物のなかで最も恐竜に近い。ということは、この両者に共通する疾患や免疫反応は、おそらくドリーが属する非鳥類型恐竜にもみられただろうと、ウルフ氏は考えた。ドリーの仲間である竜脚類も、現生の鳥類のように、骨の内部と周囲に、呼吸器系の一部を成す複雑な気嚢(きのう)があった。

ドリーと他の動物を調べたウッドラフ氏とウルフ氏の研究チームは、ブロッコリーのような突起部ができた原因は気嚢炎である可能性が高いと結論付けた。今回の発見は、非鳥類型の恐竜も鳥類型にみられる呼吸器感染症にかかっていたことを示す初めての証拠であると、古生物学者らは言う。

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