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5億円で落札された正体不明のブラックダイヤ

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ナショナルジオグラフィック日本版

555.55カラット(111.11グラム)のブラックダイヤモンド「エニグマ」が316万1000ポンド(約4億9500万円)で落札された。今回の競売をきっかけに、この奇妙な石の出どころを巡る長年の議論が再燃した。宇宙から飛来したという議論の分かれる説も再浮上している。

エニグマを含め、ブラックダイヤモンドと呼ばれる鉱物「カーボナード」はすべて38億~26億年前に形成されたが、そのメカニズムは謎に包まれている。漆黒、不透明、穴だらけで、物理的にも化学的にも他のダイヤモンドと異なるユニークな特徴をもつ。

カーボナードは世界でもブラジルと中央アフリカ共和国でしか見つかっていない。驚くほど大きなものもあり、その一例が、史上最大のダイヤモンドである3167カラット(633.4グラム)のブラジル産カーボナード「セルジオ」だ。エニグマもラケットボール(直径約6センチ)ほどの大きさで、決して小さくはない。ダイヤモンドを専門とするカナダ、アルバータ大学の鉱物学者トマス・スタヘル氏は「かなり大きなダイヤモンドです」と語る。

だが最近まで、カーボナードはその美しさではなく頑丈さで評価されていた。単結晶の宝飾用ダイヤモンドと異なり、カーボナードは多結晶、つまり多数の結晶が集まってできている。全体に規則性のある単結晶のように割れやすい方向がないため、圧力をかけても割れにくく、工業用の研磨材として重宝されており、硬い岩に穴を開けるドリルビットや道具を研ぐ砥石(といし)として使われている。

このようにカーボナードには奇妙な点が多いため、起源についてもさまざまな説がある。米国宝石学会(GIA)の研究開発部門副社長で、エニグマを天然のカーボナードと鑑別した王武夷氏は「すべてを説明できるモデルは存在しません」と話す。

「焼けた」ダイヤモンド

この極めて頑丈な鉱物の物語は、大西洋を挟んだ2カ所で展開する。1840年代、ブラジル東部の採掘者たちによって黒いダイヤモンドが発見され、「焼けた」「炭化した」を意味するポルトガル語から「カーボナード」と名付けられた。その数十年後、中央アフリカ共和国でもカーボナードが発見された。他の地域ではまだ見つかっていない。

両産地のカーボナードは「細部までよく似ている」ため、関連性があるのは間違いないと米ペンシルベニア州立大学の鉱物学者ピーター・ヒーニー氏は述べている。カーボナードは、南米とアフリカが10億年以上にわたり地続きだった間に堆積した可能性が高い。両大陸が現在のように2つの大陸に分かれたのは、1億8000万年前に超大陸パンゲアが分裂して以降だ。

これまでに、カーボナードの起源に関する手掛かりは風雨によってほぼ消し去られてしまった。カーボナードを育んだ岩(母岩)は浸食され、粒となって古代の川岸にまき散らされた。

現在最も採掘されているタイプのダイヤモンドの起源も、約150年前は同様の問題によって闇に包まれていたと、ダイヤモンドを専門とするフランス、パリ地球物理学研究所の地球化学者ピエール・カルティニー氏は説明する。だが1870年代、パイプ状の火山岩に埋め込まれているダイヤモンドが南アフリカのキンバリーで発見されると、その答えが見えてきた。

発見地にちなんで「キンバーライト」と呼ばれるこの火山岩は、激しい噴火によって急速に上昇したマグマが冷え固まって形成される。この急上昇するマグマが、地下深くのダイヤモンドを地表付近まで運んだのだ。

カルティニー氏はカーボナードの起源について、「簡単に言えば150年前と同じ状況です」と述べている。しかも母岩が存在しないため、カーボナードそのものの奇妙な特徴から手掛かりを探すしかない。だが、それぞれの特徴が、異なる歴史を伝えているように見える。

「謎」を意味するその名にふさわしく、エニグマがどこで採掘されたのかを正確に知る者もいない。1990年代に匿名の人物に購入された当時、出品者の代理人によれば、このカーボナードは推定800カラット超で、160グラムを上回っていたという。その後、特徴的な55面体にカットされるが、石が非常に硬く、3年がかりの作業となった。

隕石かマントルか

ダイヤモンドは地球内部の高圧下で結晶化する際、深紅のガーネットや緑のカンラン石など、マントルの鉱物を内包することがある。しかし、カーボナードにはこれらの鉱物が含まれていない。その代わり、隕石に広く見られるオスボルナイト(窒化チタン)など、地球外起源を思わせる金属化合物が確認されている。

つまりカーボナードは、炭素を多く含む恒星や惑星で形成され、地球に隕石(いんせき)が降り注いでいた40億~38億年前に隕石とともに運ばれてきたのかもしれない。

ダイヤモンドを専門とする米フロリダ国際大学の地球物理学者スティーブン・ハガティー氏は1996年、この地球外起源説を米地球物理学連合(AGU)の会議で提唱した。氏は今も、カーボナードがもつ多くの奇妙さを論理的に説明できるのはこの説だけだと主張し続けている。

「誰かが科学的にしっかりした代案を出してくれれば、私は心から歓迎します」とハガティー氏は述べている。

ハガティー氏の説を支持していない科学者もいる。ペンシルベニア州立大学のヒーニー氏は1990年代にカーボナードの研究を始めた当初、隕石説は論理的だと思った。しかし、カーボナードを分析すればするほど、地球のマントルで形成された可能性が高いと考えるようになった。

ヒーニー氏はその理由として、キンバーライトのダイヤモンドからも同じ地球外由来を思わせる金属化合物の一部が発見されている点を指摘する。また、まれではあるものの、オスボルナイトは地球のマントル深部で形成された鉱物や岩石に含まれていることもある。

しかし、本当の意味でヒーニー氏の考えを変えたのは、カーボナードの多くが非常に大きいという点だ。ダイヤモンドは隕石からも実際に発見されており、隕石の衝突時の高温高圧によって形成されるが、こうした地球外由来の石は例外なく小さい。

「宝石とは似ても似つきません」とカルティニー氏は話す。「それでは何も作ることができないのですから」

とはいえ、マントル説にも謎は残る。カーボナードには、どれもスポンジのように穴が無数に開いているという不可解な特徴がある。地球のダイヤモンドの大半は、地下約160キロより深い場所の高温高圧下で形成されるが、そのような条件では細かい穴が維持できない。

「穴が崩壊してしまいます」と話すハガティー氏は、地球の地下ではなく、死にゆく星の表面で炭素が融解してガスが抜け、細かい穴が形成されたのではないかと説明した。

穴の説明としては他にも、地下にある高温の流体が結晶化したからだという説や、本来は鉱物で満たされていたが遠い昔に洗い流されたという説などがある。ヒーニー氏は、かつてカーボナードの空洞には放射性元素を豊富に含むリン酸塩鉱物が存在していたが、放射性元素の崩壊に伴って石の結晶格子構造を損ない、石の色が暗くなったという説を唱えている。

しかし、穴は互いにつながっているため、残された物質を調べることすら難しい。内包物が最初から存在したのか、後に形成された鉱物かを見分けるのは容易ではないからだとカルティニー氏は説明する。

スタヘル氏も「カーボナードは本当に難題です」と語り、石そのものの化学的性質が鍵を握るかもしれないと言い添えた。

奇妙な化学的性質

ダイヤモンドは炭素のみで構成されているが、炭素原子には中性子の数が異なるために重いものと軽いものがある。これらを同位体といい、カーボナードの炭素同位体の割合は普通のダイヤモンドと異なる。地球の奥深くで形成されるダイヤモンドよりはるかに軽く、生命体を構成する有機炭素に近い。

一部の科学者はこの軽さを理由に、プレートが沈み込む場所で地中深くに引き込まれた有機物からカーボナードが形成されたと考えている。以前、普通のダイヤモンドで提唱されたメカニズムだ。カーボナードが形成されていた約30億年前は、地球上に生命が現れ始めた時期でもある。

「カーボナードは地球最古の生物の化石なのでしょうか?」とヒーニー氏は問い掛ける。「その答えは誰にもわかりません」

しかし、カルティニー氏らは別の起源を示唆する手掛かりを見つけている。2010年にフランス領ギアナで、カーボナードと炭素の同位体の割合をはじめ、化学的な特徴がそっくりなダイヤモンドを発見したのだ。このダイヤモンドはコマチアイトの中にあった。コマチアイトは地球の初期のみに流れていた超高温の溶岩から形成された火山岩だ。

このダイヤモンドの結晶の構造はカーボナードと異なるが、コマチアイトを作った超高温の溶岩によって、カーボナードのような結晶ができることもあるのではないかとカルティニー氏は考えている。

「地球のマントルからカーボナードが形成しうることは、もはや否定できません」と氏は言う。

しかし、最終的な答えが出るのは、この黒いダイヤモンドがまた新たに見つかったときかもしれない。新たなカーボナードには明確な出どころを示す物質が含まれているかもしれないし、母岩が真の起源を解き明かすかもしれない。

古代から輝き続けるエニグマは、私たちの宇宙がまだ多くの驚きと謎を秘めていることを思い出させてくれる。

(文 MAYA WEI-HAAS、訳 米井香織、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2022年2月14日付]

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