2021/10/8

産卵場所の候補となる隙間を実際に観察したわけではないが、イカのオスは「その場所をきれいにして、そこが卵を産み付けるのに適した環境であり、他のオスや捕食者がうろついておらず、安全であることを確認しているのではないでしょうか」とサンパイオ氏は述べている。

これらはすべて、オスのアオリイカがこれまで考えられていた以上に、自分の遺伝子を残すことに力を注いでいることを示唆している。

イカをはじめとする頭足類全般では通常、卵がふ化するまでの世話はメスが行う。腕で卵をきれいにしたり、水管や腕を使って卵の周囲の水流を増やして酸素を供給したりするのはメスの役目だ。オスは何もしない。多くの種では、メスは卵がふ化した後に死んでしまう。

頭足類の専門家で、アイルランド研究評議会およびアイルランド国立大学ゴールウェイ校の博士研究員フェルナンド・アンヘル・フェルナンデス・アルバレス氏もまた、今回の発見に驚いている。

氏は今回の研究には参加していないが、研究結果は確かなものだと考えている。「頭足類のこうした行動は見たことがありません。(支配的な)オスは通常、メスから遠く離れた場所には行きません。他のオスがメスと交尾する可能性があるからです」

イカ研究の今後

今回の研究は、頭足類の交尾を野生環境でさらに研究することの重要性を示していると、フェルナンデス・アルバレス氏は指摘する。

「私たちがアオリイカの行動について知っていることの大半は、水族館での研究がもとになっています」。しかし、そうした人工的な環境が単純すぎるせいで、イカが産卵場所の探索行動をとっていなかった可能性もある。

現在、サンパイオ氏とチェン氏は、他の科学者たちにも声をかけ、世界の他の海域でもアオリイカがこうした交尾行動をとっているのかどうかを調べている。

「これほど広大な海域に生息している種を研究する上での最大の課題は、網羅的かつ代表的な例を集めることです。他の科学者と協力することで、互いに時間とリソースを提供しあいながら、世界規模の研究を共同で行うことができます」

いずれにせよ、イカ、そしておそらくは他の頭足類が、私たちが想像していたよりも洗練された交尾行動をとっていることは間違いない。

サンパイオ氏は言う。「イカについて知れば知るほど、その複雑さと奇妙さに驚かされます」

(文 MELISSA HOBSON、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2021年9月8日付]

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