日経クロストレンド

原料メーカーを説得し、約1年かけてコーシャ認証取得

茶会には、08年に国産初のコーシャ日本酒となった「獺祭」の蔵元、旭酒造の桜井一宏社長も参加。在日本首席ラビで認定機関「コーシャジャパン」の代表でもあるビンヨミン・Y・エデリー氏らと親交を深める場となった。獺祭の認証に関わったエデリー氏は「獺祭を最初に飲んだとき、特別な味だと感じた。米から造られているにもかかわらず、ふくよかな味で、生産者を応援する精神にも共感した」と、当時を振り返る。

桜井社長がコーシャ認証をすすめられたのは米国駐在中のこと。「現地の食品スーパーマーケットには、ベジタリアンやビーガンと同様にコーシャゾーンが設けられ、ユダヤとは関係ない消費者もコーシャ食品を購入していた。市場の広がりと可能性を感じたのが認証取得のきっかけ」と、桜井社長は話す。

お茶を楽しむ旭酒造の桜井一宏社長も

もともと海外進出に慎重だった桜井社長だが、自ら現地で営業し、好反応を目の当たりにしたことで考えが180度変わったという。「おいしいものさえあれば、道は開ける。国境と言葉の壁は品質によって越えられるという経験をして本気になった」(桜井社長)

とはいえ、コーシャ認証を取得するのは容易ではなかった。日本酒は主に米と米こうじ、水を発酵させてつくられる。コーシャでは全工程に遡ってチェックされるため、麹、酵母、乳酸といった原料メーカーを説得するのに一番苦労した。そもそもなじみのない概念であり、ラビの訪問に対応した生産者も困惑気味だったという。驚いたのは、最初にラビが訪問したときに、急須からいれたお茶に手をつけなかったことだ。認証されたお茶かどうか分からないという理由だったが、認証取得後に直営バーに招待した際も、グラスを洗ったシンクで他の食器を洗ったかどうかなどグラスの洗い方でダメ出しをくらった。

コーシャ認証の手続き開始から約1年。純米大吟醸酒がウリの獺祭は、醸造用アルコールを一切使わず、シンプルな製造方法だったことから認証取得までは早かった。「ラビが人生を懸けて精神的な部分までみているのがコーシャ認証。原料メーカーに了解を得る段階で諦める企業もあるが、結局、覚悟を問われているのでは」と、桜井社長は語気を強める。

ただし、認証取得したからといって販路が急拡大するわけではない。それよりも、世界進出への本気度を世間にアピールでき、海外進出の側面支援になったことが一番の収穫だという。桜井社長の夢は「言語や国境、文化の壁を越え、おいしい酒を認めさせる」。そのために解決すべき課題をすべてクリアしたいという強い信念が仲間との信頼感につながっている。

「コーシャ認証で世界進出への本気度をアピールできる」(桜井社長)
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世界25カ国で展開する獺祭