2021/10/11

1809年にはマサチューセッツ州が制定した法律によって、州内自治体の保健委員会に、21歳以上の住民に天然痘のワクチン接種を義務付ける権限が与えられた。「19世紀の雇用主は、自分の店や家で働く人を採用する前に、天然痘の予防接種を受けたか過去に感染済みである証拠を示すよう求めることがありました」とコニス氏は説明する。通常は、接種後に腕や脚に残る接種跡が証拠になった。

20世紀に入ると、同州の法律は違憲であるとして訴訟が提起されたが、米最高裁は1905年に同法を支持し、予防接種の義務化は合憲であるという判例を作った。最高裁は1922年にも別の州におけるワクチン接種の義務化を支持し、州当局にはワクチン接種を通学の条件として定める権限があるとした。

現在でも軍人には多くの種類のワクチンが義務付けられており、医療従事者もインフルエンザ、麻疹(はしか)、おたふくかぜ、風疹などに対するワクチンの接種が雇用条件として求められることがある。しかし、ほとんどのワクチン接種義務の対象者は学童であり、全50州が入学条件としてワクチンを義務付けている(ミシシッピ州やメーン州のように、宗教上の理由や思想信条による免除を認めていない州もある)。

ワクチンの義務化は、接種率の向上とアウトブレイク(集団発生)の防止という2つの点で大きな効果があるとライス氏は言う。米国の学校がワクチンを義務化したことにより、50州のすべてで小児のワクチン接種率が向上し、予防可能な病気のまん延が抑えられたことが複数の研究からわかっている。

一例を挙げよう。1976年と1977年にアラスカ州で麻疹が大流行したとき、州の保健当局は、麻疹、おたふくかぜ、風疹のワクチンの接種義務を厳格化した。米疾病対策センター(CDC)によると、告知されていた施行日の当日には、州内の8万9109人の生徒のうち7418人がワクチン接種証明を提出できずに帰宅させられた。だが1カ月後には、登校が許可されない生徒がまだ50人ほどいたものの、麻疹の流行は収まっていたという。

インフルエンザワクチンの接種を医療従事者に義務化している病院では、任意接種にしている病院よりも高い接種率を達成している。また、バイデン大統領の発表以前に新型コロナワクチンの接種を義務化していた機関では、すでに一定の成果を上げている。例えば、ワクチン接種を受けた現役軍人の割合は、米国防総省が接種の義務化を発表してから数週間で76%から83%まで増加した。

義務化へのハードル

だが、今回の新型コロナワクチンの義務化は、大流行を即座に収束させるものではなく、効果が保証されているわけでもない。共和党や雇い主たちからは提訴されることになるだろう。また、義務化の対象となる全米1億人の労働者のうち、すでに接種済みの人数ははっきりせず、新たにどれだけの人が接種を受けることになるのか疑問視する専門家もいる。

「(接種の義務化が)もし完全に実施され、適切に施行されるなら非常に効果的な手段であることは間違いありませんが、それには困難が伴います」と米マーシー大学(ニューヨーク州)の疫学者ロッシ・ハサド氏は指摘する。「制度に多くの欠陥を生みだし、パンデミック(世界的大流行)を長期化させるおそれもあります」

また、新型コロナワクチンを接種しても、免疫ができるまでには時間がかかる。そして、感染力の強いデルタ株が米国で主流となっているため、感染拡大を阻止するためには引き続き、手洗い、マスクの着用、ソーシャルディスタンス(社会的距離)の保持といった医療以外の手段が重要となるだろうとハサド氏は言う。

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