
泥炭地を守るために何ができるか
高い木々がそびえる森林や風光明媚(ふうこうめいび)な草原とは異なり、泥炭地は魅力に欠ける印象があるため、その保全と復元には広報活動が必要となる。
カークブリート=ハーマンズ氏によると、泥炭地はかつて不毛の土地と考えられていた。「1980年代には、人々はまだ、泥炭地を有効活用するには、排水をして植物を植えなければならないと考えていました」
世界中の多くの湿地帯と同じく、泥炭地でもまた、頻繁に排水が行われてきた。家畜の放牧やアブラヤシ農園など、より経済的価値の高い土地にするためだ。過去には、北米と欧州の泥炭地の多くが水を抜かれ、泥炭が燃料として燃やされていた。東南アジアでは、広大な熱帯泥炭地で森林が伐採され、水を抜かれて、利益の上がるアブラヤシのプランテーションに転換されてきた。

コンゴやアマゾンでは、広大な泥炭地が最近発見されたばかりだが、こうした場所は開発の対象になりやすい。国際泥炭地協会のリーリー氏はこれに警鐘を鳴らす。
「自然保護主義者として、私は常々、今あるものを維持するために努力すべきだと主張しています。復元には必ずコストがかかり、時間と資金が無駄になります」
泥炭は形成されるまでに数百年を要し、それを復元するのは複雑でお金のかかる作業だ。その理由としては、泥炭地の多くが人里離れた場所にあることも大きい。英国の泥炭地の生態系を復元するためのとあるプロジェクトでは、1600ヘクタール程度の広さを復元するのに270万ドルの費用がかかった。
ティエラ・デラ・フエゴの泥炭地は法律上、鉱物に分類されているため、採掘の対象となる可能性もあると、ティエラ・デル・フエゴ水資源局の責任者アドリアーナ・ウルシウオロ氏は言う。
「もっとも大きな課題は、地域にも政府にも、泥炭地の価値についての知識と分別が欠けていることです。こうした状況においては、たいていの場合、採掘できる鉱物としての泥炭地から得られる私的な利益のほうが、保護活動よりも優先されてしまうのです」

(文 SARAH GIBBENS、写真 LUJÁN AGUSTI、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2022年2月10日付]