
アンデスの高原で380頭のアルパカを飼育するルフィーノ・キコ氏は、毎年11月に春の雨が降ると、牧草地が緑色に変わったことを覚えている。
「牧草地はもう緑色に変わっている季節のはずなのに、これを見てください。まだ黄色で、私たちが飼育する群れにはほとんど役に立ちません」。キコ氏は強烈な日差しと真っ青な空の下、春の草が枯れている牧草地を見渡した。
57歳のキコ氏はペルー南東部のプーノ県ラグニージャスで生まれ、先祖代々と同じ日干しれんがの家で暮らしている。一族は何世代にもわたってアルパカの世話をしてきた。しかし、気候変動が風景を変えつつあるなか、56家族のアルパカ飼いが暮らす、標高約4200メートルの大切な集落が今後も存続できるのか、キコ氏は不安を感じている。
アンデス山脈では、気候変動がアルパカの生育にさまざまな影響を与えている。降水量の変化や氷河の後退が原因となって、アルパカの赤ん坊の死亡率が上がったり、餌場の草原が縮小したりしているというのだ。

ペルーの高地は緑豊かではなく、過去の記録を見ても降水量は決して多くない。しかし、アルパカを飼育するには十分だった。アルパカは1年のうち最初の3カ月、雨期のみに出産する。ところが現在、雨期の気温が不安定になっている。寒さに敏感なアルパカは、気温の急激な変化によって病気にかかりやすくなり、赤ん坊の死亡率が上昇している。寒波に見舞われ、何千頭ものアルパカが命を落としたこともある。
氷河の後退によって川の流量が減っていることも問題だ。専門家によれば、4~11月の長い乾期の間、川の水が高地の草原や湿地を支えてきたという。ペルー国立農業イノベーション研究所(INIA)でアルパカプログラムの責任者を務めるオスカー・カルデナス氏は、年間を通じて草がびっしり生えている沼地の場合、1ヘクタールで25頭のアルパカを楽に飼育できるが、通常の牧草地は1ヘクタールで1頭しか養うことができないと説明する。
「氷河はその土台です」とカルデナス氏は話す。「湿地が消えれば、アルパカも消えてしまいます」

アルパカ飼育の長い歴史
INIAによれば、ペルーには約400万頭のアルパカが暮らしている。これは世界全体の個体数の70%以上に相当する。
ペルーでは、アルパカは少なくとも6000年前から家畜として飼育されている。ラクダ科に属し、頑丈そうに見えるが、牧草の栄養が低下するなど、たった一つの要素が混乱するだけで、群れ全体が大打撃を受けるとカルデナス氏は説明する。16世紀、スペインから征服者が到来すると、インカ帝国で飼育されていた群れがほぼ全滅した。個体数が再び増加に転じたのは1900年ごろで、毛の需要が高まったことが主な理由だ。
気候変動によってこれほど大量に死滅することはないかもしれないが、直接的な影響の一つとして、被毛が変化し、毛の価値が下がる可能性はあるとカルデナス氏は述べる。アルパカには、短毛種のワカイヤと長毛種のスリの2種類が存在する。
ペルーでは年間約7600トンのアルパカの毛が生産されている。成体の体重は最大60キロほどで、年間約2キロの毛を刈り取ることができる。毛は色と品質で分類される。色は22種類あり、白が最も一般的で人気が高い。
