初心者も簡単に天体観測 デジタル望遠鏡「eVscope 2」

仏Unistellar(ユニステラ)の「eVscope 2(イーブイスコープ 2)」は、スマートフォンと連携できるデジタル望遠鏡だ。星空の動きに合わせて望遠鏡の向きを自動で変える「電動経緯台」を搭載するだけでなく、1分以内でセットアップが完了する自律フィールド検出機能も搭載しているため、初心者でも簡単に天体観測や撮影が可能だという。実際に試してみた。
天体望遠鏡の"ハードル"をデジタルで乗り越える
子供から大人になる過程の中で、一度は天体望遠鏡を手にしたことがある、もしくは何らかの形で観測したことがあるという人は多いのではないだろうか。ハレー彗星(すいせい)や百武彗星、ヘール・ボップ彗星の出現といった大イベントだけでなく、日食や月食、流星群の出現など毎年さまざまな天文現象が発生し、そのたびに天体観測への関心が集まる。
肉眼で確認できる流星群などは別として、恒星や惑星、星雲などを観測するためには天体望遠鏡が必要だ。しかし、経験者なら分かると思うが、まず観測したい星を"導入"する(目当ての天体を望遠鏡の視界に入れる)こと自体かなり難しい。さらに、地球の自転によって星空がめまぐるしく動き続けるため、対象とする星を常に望遠鏡の視野に入れながら観測し続けるのは想像以上に困難だ。
こうしたハードルを、デジタルの力で克服したのが仏Unistellarの「eVscope 2」だ。スマートフォンアプリとの連携によって、たとえ初心者であっても星を簡単に導入でき、追尾しながら気軽に観測できる。
早速使ってみよう。eVscope 2は光学50倍レンズと電動経緯台を搭載する天体望遠鏡だ。本体内にバッテリーを内蔵しており、単体で約12時間、天体を追尾しながら観測を続けられるようになっている。
水準器を見ながら付属の三脚を設置し、その上に本体を載せてから手締めネジで留める。三脚を含めた本体は9キログラムと結構重いので、落とさないように気を付ける必要があるが、設置はこれで完了だ。


電源ボタンを長押ししてオンにしたら、スマホのWi-Fi設定を開いてeVscope 2のアクセスポイントに接続。スマホ向けの「Unistellar」アプリを起動すると、接続が完了する。

次の作業が一番面倒というか、一番難しいところかもしれない。スマホアプリの左下にあるジョイスティックを動かして、北極星やそれよりも明るいシリウス、もちろん他の星でもいいので適当な天体をスマホ画面の"視界"に入れたら、鏡筒の下部にあるフォーカスホイールを回してフォーカスを調整する。続いてアプリ自律フィールド検出(AFD)ボタンを押すと、現在視界に入っている天体が何かをeVscope 2が自動的に判別し、導入が完了する。

フォーカスの調整が甘いのか、うまくいかない場合もあった。スマホの画面に映し出された星空の映像が暗いのと、星自体も小さいため、このフォーカス合わせが一番難しいところかもしれない。検出がうまくいかなかった場合、月が出ていれば月でフォーカスを合わせるのが最も簡単だろう。筆者の場合は2~3回のチャレンジで導入が完了した。

その時点で見られる天体をすぐに観測できる
目指す天体の導入が完了したら、いよいよ観測に入る。アプリの「探す」メニューをタップすると、「Unistellar社推奨」や「現在の星座」「もうすぐ消えます」といったメニューで、恒星や惑星、星雲、星団の一覧が表示される。現在、その地点でどの天体を観測できるのかが一目で分かるのが初心者に優しい。
天体名が英語なので分かりにくいものの、見たい天体があったらそれをタップして開き、右上にある「移動」ボタンをタップすると、その天体を導入してくれる。もし「移動」ボタンがグレーになっているようだと、それは初期導入が完了していないサインだ。最初の自律フィールド検出をやり直す必要がある。


導入が完了したら、「ONライブビューモード&天体追跡」モードになり、導入した天体を追跡しながらライブビューで観測できるようになる。右上の「↓」ボタンを押すと、画像をアプリ内に保存できる。

目当ての天体を導入しても、暗くて思うように観測できないこともあるだろう。その場合は、長時間露光によって明るく観測できる「エンハンスト・ビジョン」機能を利用する。じわじわと明るくなってくるので、納得できるまで長時間露光してみるといいだろう。


"ほぼ皆既月食"の撮影にも成功
最初に天体観測をした2021年11月10日は月齢5.2(満月の37.8%)と夜空が明るい日だったので、天気は良かったものの、100%満足できるような結果ではなかったようにも思えた。

eVscope 2の貸出期間中に新月を迎えるチャンスはなかったが、その9日後の11月19日にはなんと"ほぼ皆既"の部分月食が見られるということで、撮影にチャレンジすることにした。

16時27分頃(東京時間)に月が出てから、18時2分頃に食の最大を迎え、19時47分過ぎには部分月食が終了するという予定だったが、観測した奥多摩湖畔はあいにくの曇り空。しかし月が出ては雲に消え、出ては消えという感じなので撮影自体は成功した。

難しいのは露光の設定だった。Unistellarアプリでは、ライブビューモードの右上にあるアイコンをタップすると明るさを信号で増幅する「ゲイン」と、シャッタースピードで増幅する「露光時間」の設定が行える。自動にすると月の表面全体が映し出されるのだが、それだと"月食感"が思うように出ない。かといって、マニュアル設定で食(地球の影)を担っている部分を暗くするほうが写真として正解なのか、よく分からなくなってしまった。


従って両方を保存しておくか、自分の好きな写真を追い求めればいいというのが正解だろう。何しろ刻一刻と月食の状況が変わっていくので、そもそもどのような設定が一番"美しい月食"になるのか、迷いに迷ってしまった。
そうやって設定のチューニングを追い込んでいく作業も、趣味の楽しさというものなのだろう。天体イベントには望遠鏡が向くケースと、向かないケースがあるが、望遠鏡が最適な状況であれば、このeVscope 2はかなり頼もしい味方になるだろう。
(文・写真 IT・家電ジャーナリスト 安蔵靖志)
[日経クロストレンド 2022年1月14日の記事を再構成]
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